鬼面の太鼓奏者が大暴れ!迫力と美しさを備えた伝統太鼓を守る『大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会』

松本 良太さん、石井 聡一さん、新田 香さん/大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会

大越町

田村市大越町で、今も語り継がれるある伝説。1,200年も昔、蝦夷(えみし/現在の東北地方)平定を命じられ、この地に遠征してきた時の征夷大将軍、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)に立ち向かった鬼五郎(おにごろう)・幡五郎(はたごろう)兄弟の物語。その活躍を、和太鼓で表現し、人々に伝え続ける人たちがいる。

まるで悪鬼を思わせる恐ろしい鬼のお面をかぶった太鼓奏者が、縦横無尽、自由奔放に暴れまわりながら演奏する鬼五郎幡五郎太鼓は、今では田村市を代表する郷土芸能。今回は、その郷土芸能を守る「大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会」のメンバーであり、副会長の松本良太さん、石井聡一さん、そしてジュニア時代から太鼓を続けている新田香さんの3人にお話を伺った。

太鼓の元になったのは、郷土を守ることに人生を捧げた鬼五郎・幡五郎兄弟の物語

鬼五郎幡五郎太鼓の歴史は、実は比較的新しい。発足したのは平成元年。大越町が地域活性化策として掲げたテーマが、この地に代々伝わる「鬼五郎幡五郎兄弟」の伝説だった。故郷のために人生を捧げた兄弟の物語は、この地に暮らす人なら一度は耳にしたことがあるであろう。
簡単にあらすじを紹介したい。

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その昔、早稲川(わせがわ/大越町の地名)に、里の長である鬼五郎と、弟の幡五郎という仲の良い兄弟が住んでいた。同じころ、朝廷より蝦夷平定の命を受け、この地へと向かっていたのは時の征夷大将軍坂上田村麻呂の一行だ。
武術に秀でた鬼五郎は、主君である大多鬼丸(おおたきまる)とともに田村麻呂の軍を迎え撃つが、長引く戦いに、徐々に追い詰められていく。そして、まさに最期を迎えようとするその直前、弟に言った。

「お前は生きのびて立派にこの地を守ってくれ。わしは死んでも鬼となってこの地を見守ろうぞ」と。
弟の幡五郎は、兄亡き後その意思を継ぎ、ふるさと早稲川の里づくりに生涯を捧げた。

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(松本さん)「このふるさとを愛した2人の兄弟の想いを広く世間に伝えるべく、この物語を題材にした和太鼓集団を作ることが決まり、『大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会』は誕生しました」

【ご提供:大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会】

「聴かせる」だけではなく、「魅せる太鼓」をモットーに

「大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会」が演奏する太鼓の特徴は、なんといってもその動きの美しさ、そして激しさにある。それは設立時から指導を受ける奥州猿羽根(さばね)流龍連山先生の教えによるものだ。

(石井さん)「猿羽根流のモットーは『魅せる太鼓』です。当時、他ではあまり行われていなかったバチ回しを行ったり、太鼓を叩く時の腕やバチの角度、そして止まっているときの所作、細かいところにも気を配ります」

鬼五郎幡五郎太鼓には全部で4曲あるが、その中でも3番太鼓(3曲目)の「鬼面」は、鬼五郎幡五郎太鼓の代名詞ともなっている曲だ。
身の毛もよだつ恐ろしい鬼のお面をつけた奏者たちが前列に並び、客席に飛び込んでくるのではないかと思うほど縦横無尽に暴れまわりながら、激しく太鼓を叩く。伝説の中では、鬼五郎が田村麻呂軍と壮絶に戦っているパートだ。この激しい動きは他ではなかなか見ることはなく、鬼五郎幡五郎太鼓ならではだ。(記事の最後に演奏している動画があるので、ぜひ見てもらいたい)

【ご提供:大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会】

(新田さん)「(鬼面を付けた奏者の)この時の振り付けは、自由なんです。だから個性が出ますよね。最初はやっぱり恥ずかしいって思うんですけど、恥ずかしがっている方が、後から見れば恥ずかしいというか。今では鬼面を付けた時は『女を捨てる』ことを徹底しています(笑)。見た人に『なんだこれは!!?』と思ってもらえるパフォーマンスをしたいですね」

(石井さん)「自分も、鬼面を付けて心がけるのは『非人間』を演じることです。太鼓を始めた当初は、自分ではカッコ良い!と思って色々動き回るんですけど、後からみたらすごくカッコ悪かった、なんていうこともよくありました。色々試したり、他の人の振り付けを見たりして、動きを学んでいきました」

地域貢献ができてこその、鬼五郎幡五郎太鼓

そんな激しく、美しい太鼓に魅せられる人は多く、鬼五郎幡五郎太鼓は地域のイベントや学校などから引っ張りだこだ。
多い時では年に30回、出張演奏に赴く。訪問先は市内の福祉施設や青年の家、イベント会場、そして時には市外、県外から声がかかり、演奏に行くこともある。地元の幼稚園や学校から、「子どもたちに太鼓を教えてほしい」という要望も受ける。

(松本さん)「中学生に2,3か月継続して教えて、彼らが文化祭で発表してくれたこともありました。地元の高校生の有志が授業の一環で習うこともあります。そもそもこの保存会は地域活性のために立ち上がったので、地域に貢献したり、次の世代に伝統を継承していくというのは、必要なことだと思います」

地域の子どもたちと【ご提供:大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会】

年齢も職業もバラバラ。多種多様な会員で成り立つ保存会

現在保存会には、18名程の会員が所属している。昨年(2022年)は2名、今年(2023年)もすでに1名の新会員が入ってきた。メンバーはそれぞれ保育園の先生や市役所職員、主婦や農家など、その背景はバラバラだ。年齢も20代から60代までが幅広く活動している。

(新田さん)「私は鬼五郎幡五郎太鼓のジュニアクラス(現在は活動休止中)の時から活動しています。最近まで主婦でしたが、今は就職して、地元のデザイン会社で働いています」

(松本さん)「私は18歳からなので、もう20年近く続けていますね。普段は保険会社の営業をしています」

(石井さん)「自分は市役所職員です。元々は職場の先輩に誘われて始めたんですが、歴としては16年程になります。住んでいるのは大越町の隣の船引町ですが、縁あって入会させてもらいました」

設立当初、保存会の会員になれるのは大越町の人だけだった。しかし時代の流れに合わせ、今ではその条件をなくし、住んでいる場所に限らず、やりたい人は誰でも参加できるようになった。一番会員が多く住んでいるのは、石井さんの住む船引町だ。場所に限らず、イベントなどでパフォーマンスを見た人が「カッコいい!!」と魅了され、入会することが多い。

保存会のみなさん【ご提供:大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会】

辛さも楽しさも共有できる仲間たち。太鼓はあくまでコミュニケーションの手段

保存会の練習は、週に1回行われる。先輩が後輩に教えるシステムのため、仕事の調整をしながら、練習に行く時間を作る。しかし、家庭もあり、職場でも活躍するメンバーが練習の時間を確保するのは容易ではない。それでも不思議と辞めようとは思わないと話す。

(松本さん)「実は一度、保存会からちょっと距離を置いていた時期もあったんです。今の保存会は『楽しくやりましょう』という方針ですけど、昔はもうちょっと厳しかったんですよね。上手に叩けないことで強く怒られて、私が反発したりして。でもある時、久しぶりに練習にいったら、自分より後に入った人が、太鼓の花形とも言われる長胴太鼓を叩いていたんです。自分は別の太鼓でした。正直、悔しかったです。それで、そんなに長胴太鼓がやりたかったら、もっとがんばるしかないんだって、練習を再開しました」

(石井さん)「練習時間を確保するのは大変ですけど、でも『田村代表』なんて言われると、やっぱりうれしいですよね。あと鬼五郎幡五郎太鼓誕生の地である大越町の人から『よく動けてたよ』『今回なかなか良かったね』と褒められると、モチベーションがあがります」

(新田さん)「みんな仕事や家庭があるので、これだけ会員がいても、実際にイベントの招集がかかって参加できるのは数人だったりもします。日程を調整して参加するのは大変ですけど、やっぱり私は太鼓が好きなので、うまく叩けた時にはすごくうれしいんですよね。それに、保存会では太鼓だけではなく、流しそうめんやBBQ、スイカ割りをやったり、懇親会も多いんです。どちらかというと、それが楽しみで続けているのかもしれないです(笑)」

みなさんに共通するのは「太鼓が好き」なこと。そして、「楽しみの場」として、太鼓を続けていることだ。

(石井さん)「おそらく私たちにとって、太鼓はあくまで手段なんですよね。ここが一つのコミュニティの場として、メンバーみんなが「楽しい」と思って交流できる、そんな場所であり続けられたらいいなと思います」

保存会には上下の関係は無く、普段からとてもアットホームな雰囲気で活動しているそうだ。そのお話の通り、年齢の異なる今回の3人も、お互いフラットにおしゃべりを楽しんでいる様子が見て取れる。

挑戦はまだまだ続く。ジュニアの会の復活や「鬼んピック」開催!?

そんな保存会の皆さんに、これからやってみたいことを聞いてみた。

(石井さん)「ジュニアの会は復活させたいですね。今は休会しているんですが、以前は大越町の人気の習い事の1つだったんです。大人より優秀で、県大会で優勝して、全国大会に行ったこともありました」

(新田さん)「後輩に教えることで、自分たちの練習にもなっているので、そこはしっかりやりたいですね。何より『楽しい会』であり続けたいです。10年後、自分より若い世代に保存会を託して自分は引退しているという未来もあると思いますけど、やっぱり自分も保存会の一員として、そこにいたいなって思います」

(松本さん)「『鬼んピック』をいつか田村市で開催したらいいんじゃないかと思っています!日本中、世界中の『鬼』が田村市に集結して、パフォーマンスをしたり、奇声選手権をやったり(笑)。メタバース(仮想空間)に、全員鬼の姿で集まって演奏なんていうのも、おもしろそうですよね」

みんな太鼓が好きで、保存会が好きで、太鼓の活動を続けていることがよく伝わってくる。
田村市の地域活性の担い手として、これからも大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会のみなさんの活躍が期待される。

鬼五郎幡五郎太鼓を見てみたい方は、こちらのURLをクリック↓
https://www.youtube.com/watch?v=AELwuMTPcBc

大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会についてのお問合せ

大越町鬼五郎幡五郎和太鼓保存会

代表:湯佐 清光
練習場所:田村市大越つつじヶ丘公園内ふれあい音楽館
練習日時:毎週水曜日 19:00~21:00
連絡先: s3569t@gmail.com (担当:助川)