30代でUターン&就農!農業を通して地域の環境と人に資する自然農園リリバリ『青木純さん』
青木純さん/自然農園リリバリ
都路町
水や空気がおいしい豊かな自然の中で、農家さんが手塩にかけて育てた野菜やお米。その味は格別ですし、食べると体が生き生きとしてくるようです。農業を基幹産業とする福島県田村市には、おいしくて安全な野菜を育てる農家さんがいらっしゃいます。田村市都路町で農業を営む自然農園リリバリの青木純さんは、県外への進学・就職を経て、6年ほど前に生まれ育った都路町にUターンしました。「農業で地域に役立てることがある」と感じ、代々の家業である農業を本格的に始めたという青木さんに、環境維持と循環型の農業を行う思いや、田村市の農業の魅力などについて、お話を伺いました!
「青木くんのトマトは甘くない」。最高の褒め言葉を胸に個性を出す農業へ
自分は中学まで都路で過ごし、高校は神奈川県にある陸上自衛隊少年工科学校(現:陸上自衛隊高等工科学校)に進学、その後宮城県の陸上自衛隊にて勤務しました。都路に戻ったのは2018年ごろ、32歳の時です。体調不良で自衛隊を離れることになり、別の仕事をしていた折、両親から「うちを継ぐ人がいない」と連絡がありました。4人兄弟の一番下でしたが、上3人は家を離れてしまっていたこともあり、それなら地元に戻ってみようかなと思いました。
早くに上京したこともあって都路のことがよく分からず、まずはどんな地域かを知ろうと、田村市復興応援隊に入って1年間活動しました。その中で「うちは代々農業をやっている。農を通して、地域に役立てることがある」と方向性が定まり、就農を決めました。農業は手伝いとして少しやったことがある程度だったので、矢吹町の農業短期大学校で3ヶ月間研修を受けてから、本格的にスタートしました。
復興応援隊をしていた時に、横浜中華街の飲食店の方にうちのトマトを食べていただく機会がありました。その時に言われた「青木くんのトマトは甘くないね。肉質がしっかりして、トマト本来の味がする。サンドイッチなんかに合うね」という言葉が、今でも忘れられないです。トマトは甘ければ売れるというイメージがありましたが、使う人によってこのような感想が生まれるのかと面白く、最高の褒め言葉だと感じました。それからは万人受けよりも、酸味や食感、皮、ジェル状部分、青臭さなども含めて、「うちの個性を出していこう」と考えるようになりました。現在は自然農園リリバリとして、自分と両親の3人でトマトとお米を作っています。
野菜にも人にも、そのものの生命力を生かす手助けを。自然農園リリバリの事業
事業においては自然との共生を意識し、減農薬・有機栽培をしています。放射能で一度汚れた土地にこれ以上負担をかけたくないし、農薬だらけの野菜を丸かじりというのも、あまりやりたくないですよね。野菜は素直なので、手をかけてやっただけ育つし、環境のことを考えないままに化学肥料を使っていれば、いずれ自分に返ってくると思っています。自分はよく「人の子がプロテインで育ったら健康的な大人になるか」という問いかけをするのですが、よく食べ、よく遊び、よく動いて体をしっかり作ることが、子どもの育ちには大事です。野菜も人と同じで、栄養剤を体に入れるよりも、本来の生命力で育つことや、その手助けをすることが重要だと思っています。
この考えを念頭に、次のような事業を行っています。
・自家製のぼかし肥料を使った有機栽培
ぼかし肥料とは、食品残渣などのさまざまな有機物を混ぜて作る肥料のことです。母から「米ぬかをやると野菜が甘くなる」という話を聞き、理由を調べていたところ辿り着きました。現在は酒粕や昆布、おからを使った肥料を作っています。酒粕は会津磐梯町の酒造さんに買いにいき、とろろ昆布の廃棄物は岩手県の漁協に定期的に取りに行っています。昆布は高価なので、廃棄するものを譲ってもらえないか、軽トラで行ける範囲の漁協に1軒ずつ問い合わせました。小さな農家が「昆布を農業用肥料にしたい」と突然電話したからか、なかなか取り合ってもらえませんでしたが、岩手県の漁協が反応してくれました。おからは地元の都路豆腐店さんからいただいています。今後長くおつきあいしていくためにも、うちの考えやこだわりを理解してくださるところから、仕入れさせていただいています。
特におからはかなり試行錯誤しましたが、現在ではどの肥料も完成形に近づいています。ぼかし肥料をトマトに使ったところ、化学肥料には無い効果が見られました。トマトのようなナス科の植物は、長年同じ場所で栽培していると生育が悪くなる連作障害が出やすく、うちでも2016年からトマトの栽培を始めましたが、収量が次第に減り困っていました。ぼかし肥料を使ったところ収量が安定し、有機肥料が野菜の生命力を手助けしていると分かりました。
肥料の材料や作り方は、ネットやYouTubeを見たり、有機JAS認証を取得した農家さんの畑を見せてもらったりなどしながら、自分で調査しました。「なぜこうなるんだろう?」というのは、常によく考えるようにしています。自衛隊時代も、車検や車両整備において「この戦車はなぜ壊れたのか」を考えたり、新人に向けて「何でも疑問を持て」と教えたりしていました。なぜそれをやるのかを分かった上で取り組まなければ、今後に続く学びを得たり成果を出すことが難しいからです。
今後は肥料の販売もしたいです。県の中小企業経営革新計画の承認は取れており、成分検査や生産のための元手準備が必要ですが、これらが揃えば販売できるところまできています。都路のほかの農家さんにも利用していただき、環境を守りながら安全でおいしい野菜を作っていただけたらと考えています。そうした野菜を皆さんに食べてもらい、高齢者は健康寿命を伸ばし、大人は生活習慣病を予防し、子どもには健やかに育ってほしいです。
・オーダーに沿った野菜の栽培
「こんな野菜がほしい」というオーダーにお応えしています。酒粕を購入している酒造さんが「地元の農家さんの黒米から色素を取り出しお酒を作っていたが、高齢のため栽培をやめてしまった」とのことで、今年からうちで黒米の作付けをしています。地元の飲食店さんからは「ネギがほしい」というご注文、さらに郡山の飲食店さんからは「都路産のミントをお酒に入れたい」とのことで、こちらも育てています。
・食育の普及
都路小学校の農業体験の受け入れをしています。野菜はどのようにできるか、世話の仕方や苦労、生命力の強さなどを感じてもらい、「なぜそうなるのか」を考えるきっかけを作るようにしています。郡山市の通信制高校の農業体験受け入れも行い、その時は肥料作りも一緒にやりました。今後は不登校の子の受け入れや、中学生の職業体験もやっていきたいです。都路は自然や畑に触れながら遊べますし、農家さんも減っていますから、うちで提供できることがいろいろあると思っています。都路=農業ができる場所だと分かっていれば、社会でドロップアウトしても、「農業があるじゃん」と発想して戻って来ることができます。それができる場所を残しておくのも自分の使命だと思っていますし、都路を教育のまちにしていきたいです。子どもの人数が1学年10名前後と少ない分、都路町商工会青年部としても学校と連携していたりと、地域の大人の関わりしろも多いです。
・地産地消
近いうちに家の近くに無人販売所を作り、トマトなどの野菜を置きたいと考えています。ゆくゆくは、地域の中に直売所兼加工所を作りたいですね。以前に移動販売を試みたのですが、需要の見込みと照らし合わせ、難しいという結論になりました。直売所兼加工場があれば、うちのような農家さんや新規就農の方の売り先になるのはもちろん、家庭菜園で作った、自宅では食べきれない野菜を出してもらう場にもなります。また、この辺の方たちは漬物などの加工技術に長けており、これを世に送り出したいと思っています。保健所の許可がおりた加工場で作れば販売できるので、その機能も持たせた場にしたいです。
こうした場所は、高齢者が楽しめるたまり場や、コミュニティのようになると思います。自分が子どもの頃にあった直売所にはまさにそういった景色がありましたし、「人は関係性が無いと元気でいられない」ということを、自分も身をもって体験してきました。膝を突き合わせる関係性を築いている地域住民が創発して場を作れば、地域においてうまく機能するのではないかと思っています。
今後は、もっとファンを増やせるような仕組み作りをしたいです。農業は十人十色ですが、生業にするなら、肥料作りや土作りをしなければいけないと、自分は考えています。SNSやメディアも活用し、ストーリーも含めて、この農業スタイルを知ってもらう方法を考えたいです。自分は今38歳ですが、あと20年経てば60歳になるし、その時親は90代。この辺りは20年したら限界集落になると思うと、あまり時間がありません。考えて農業をやることが、大事になってくると思っています。
人間らしさとは、農業のことだと思っています。有機肥料についても、SDGsという言葉が出てくるずっと前から、「もったいない」という言葉と共に実践してきました。この営みは日本人らしさや日本文化であり、日本人が外国の方から良い評価を受けているのは、先人の教育や農業が関わっているのではないかと思っています。農業を通した人間力や民度を、都路で育てていきたいです。
田村の農業の魅力と大変さ、そして可能性について
都路の農業に関して言えば、野菜を育てるのにベストな環境だと思っています。豪雪や豪雨、台風といった自然災害がほぼ無く、阿武隈山系で地盤が固いため地震にも強いです。中山間地域なので突風があっても山が防いでくれますし、寒暖差が激しいので野菜がおいしく育ちます。
課題は資金繰りです。ぼかし肥料の材料を取りに行くには燃料代や高速道路代がかかりますし、機械投資も大変。新品は800万〜1,000万で、補助金があっても良くて4分の3、大体3分の2〜2分の1の補助にとどまります。中古でもそれなりにするし維持費もかかるので、機械投資の面で就農を断念する方も多いように思います。都路町内に限る形にはなりますが、自分に言ってもらえたら、機械のレンタルをしたいと思っています。野菜や米作りには、耕運機、田植機、トラクター、コンバイン、代掻機、脱穀機、精米機など、さまざまな農業機械が必要ですが、使う時期は限定的ですし、農家をやめる家も増えているので機械が余ってきています。個人所有ではなくシェアや共同出資といった形で、一緒に使っていければ良いのかなと思っています。
また、スーパーに卸す販路の工夫や直売所の整備を通し、販売手数料を減額、あるいは全くかからない形態を生むことも考えています。そうすることで、一様に選果・袋詰めする方法ではなく、「誰が作ったか」が見える形で販売してもらうこともできます。また、2年前からはふるさと納税にも出品しており、リピーターの方がついてくださっています。鮮度の良い野菜を都路から東京へ送るのは難しく、送料も考えると埼玉や近場で買われる方が良いように思いますが、リピートくださる方々からは、「甘くない、懐かしい味だね」というお褒めの言葉をいただいています。自分たちのこだわりを理解してくださる方に求めてもらえるのは嬉しいです。
新規就農とは、事業主になるということです。苦労した分報われるし、休んだ分収入は減ります。他力本願にせず全て自分次第だからこそ、うまくいく確率を上げやすいし、生きがいになるくらいに打ち込めると思っています。昔に比べ販売のしがらみも少なくなり、レストランと契約したり、アプリを使ったり、直売に出したりと、自分の個性や野菜の魅力を生かして勝負することもできます。事業主は大変さもありますが、自分のペースを作りやすいのも事実です。朝が遅くて良い時期もあるし、自分らしいライフスタイルを実現したいという方にも、合っているのではないかと思います。
都路はチャレンジができる場所。ぜひ来て、そして住んでほしい!
自然に囲まれた暮らしに興味がある方は、「なぜそこに住みたいと思うか」を、自分の中ではっきりさせておくのが良いように思います。あやふやなまま住んで合わないともったいないですし、都会と違って、合わなかったらすぐ別の地区に移ることも難しいです。「近所付き合いが心配」という意見もよく分かりますが、この辺りは結構淡白なので、あまり都会と変わらないと思います。実際、移住して来られた方が多く住んでいますよ。
就農に興味がある方は、例えば繁忙期に「農業をやりたいと思っているので、手伝いに行きたい」「有機栽培に興味がある」などの問い合わせをしてもらうのも大歓迎です。機械を貸せますし、肥料作りも教えることができます。研修のように、実際に来てやってもらえたらと思います。事業にする方は、大型特殊免許取得や刈払機取扱講習の受講も、取り組んでもらうと良いです。
都路はチャレンジができる場所だと思っています。土地もいっぱいありますし、必ずしも農業でなくとも、パソコンやWi-Fiがあれば都会と同じ仕事ができます。子育ては一人ひとりに目が届きやすい学校環境があります。仕事や子育てが安定すれば、都路が第二の故郷になるのではないかと思います。ぜひ、いろいろな方に都路に住んでほしいです。まずは一度来て、土地に興味を持っていただき、うちにも顔を出してくれたら嬉しいです。
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たむら移住相談室では、青木さんとご一緒に、農業体験の受け入れやイベントを実施しています。田村市での就農や暮らしを具体的にイメージしてみましょう!ご参加をお待ちしております。
■オーダーメイド型農業体験(要予約。1泊2日~、ご希望に合わせての農業体験)
■ファミリー向け稲刈り体験ツアー実施予定(2024年9月下旬~10月上旬ごろ)
≪参考≫春の田植え&山遊びツアー
自然農園リリバリ
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