体験ツアーに参加し未経験の林業に魅せられた!家族と一緒に田舎暮らしや空き家改修も楽しむ『浅香純一さん』

浅香純一さん/田村森林組合 加工課 勤務

田村市滝根町

阿武隈高地に位置する福島県田村市。土地の約7割が山林で占められ、森の管理や資源として木材を活用する林業の受け入れ体制も充実しています。2022年に千葉県市川市から田村市に移住した浅香純一さんは、田村市の林業体験ツアーへの参加をきっかけに林業の面白さに目覚め、田村森林組合に入社しました。そんな浅香さんに、田村森林組合の働きやすさや移住に向けた家族ぐるみのアクション、自然に囲まれた現在の暮らしについて、お話を伺いました。

体験ツアーに参加し林業にどハマり!チャンスの波に乗って未経験の世界へ

僕は東京都江戸川区で生まれ育ち、結婚後は江東区の豊洲に住み、長男が1歳になった頃に千葉県市川市に移り住みました。20代の頃から「田舎暮らしがしたい」「暑さが苦手だから田舎に住むなら北に行きたい」と思っていたんです。家族全員エアコンが苦手で、夏の夜は窓や玄関を開けて寝ていましたが、豊洲や市川市は騒音がひどくて。2022年に田村市に移り住んで、都内から少しずつ北上してきたような形ですね。笑

移住のきっかけとなった田村市の林業体験ツアーには、奥さんがいつの間にか申し込んでいました。「お父さん、12月頭に福島県に行ってきて。申し込んでおいてあげたから」と言われて。笑 とりあえず参加してみたところ、どハマりしたんです。それまでは電気工事や、学校や公共施設などの舞台機構装置関連の仕事をしており、主に機械が相手で、手順も決まりきっていました。林業は自然が相手で、室内でちょこちょこやるよりもオープンスペースで仕事できるところが、良いなと感じました。ツアーに同行されていた田村森林組合の管野孝さんのお話がとても面白く、「やる気があるなら枠はあるよ」と声をかけてくださり、これはチャンスだと思いました。この時管野さんにお会いしていなかったら、今でも千葉に住んでいたかもしれません。(田村市の林業の受け入れ体制についてはこちら)

ツアー翌月の2022年1月には田村市への移住と田村森林組合への就職意思が固まり、3月には前職の退職届も提出し終えました。住まいは5〜6月くらいに、田村森林組合の内定は8月に決まり、10月末に田村市に移住しました。実は20歳の頃から、田村市の隣の小野町に移住しようと物件や仕事を探していたんですよ。田舎暮らしが楽しめて、奥さんの実家がある江東区にも3時間くらいで行ける距離を考えて、小野町がいいかなと。物件が見つからず一時中断していて、娘が生まれて「タイミングとしてはそろそろかな」と思っていた矢先、東日本大震災が起こって延期したんです。だから今回の移住は10年越しで、「必ずやろう」と退路を絶って来たわけですが、今思えば森林組合への就職が決まらなかったらどうしていたんでしょう。自分でもよくやったなと感じます。

移住後の仕事も住まいも目処が立った。その上で本当に移住するかは子どもたちに一任

移住の意思を固めてから実際に移住するまでの間は、すごく忙しかったです。一番は子どもたちの環境が変わるので、その確認や対応ですね。スクールバスはどうなっているかなど、平日に奥さんと家を探しに来たタイミングを利用し、教育委員会に相談に行ったり、学校を回って話を聞いたりしました。

移住してきた年は、上の息子が中3で、下の娘は小6。移住したら2人とも仲間と一緒に卒業できなくなるから、それが申し訳なくて。だから2人が嫌なら、この移住はやめようと考えました。林業体験ツアーから帰ってきてすぐ、田村市に移住したい旨を伝え、はじめは「は?」という反応でしたが、最終決断は子どもたちに任せることにしました。考えてもらっている間に準備だけ進め、仕事も住まいも目処が経った頃にもう一度聞いたところ、「いいよ」という返事でした。子どもたちが千葉の友達に会いたいと思ったらすぐ会えるよう、タイミングを見つけては千葉に行くように心がけています。先日は家から友達とテレビ通話をしていましたよ。ゲラゲラ笑いながら楽しそうにおしゃべりしていて、離れていてもこうしてつながっていられるんだから、今は本当に便利になりましたね。

勉強については、大変な思いをしたようでした。息子の受験に関しては「どんな高校があるのか」というところからの検討で、福島県の高校受験の過去問を仕入れて千葉の先生に渡し、千葉では通常の授業に加えて福島県での受験サポートもしてもらいました。いざ引っ越してきたら、千葉でやっていなかった単元が福島では既に終わっていたり、その逆もあったり、解き方が違っていたりする場合もあって、本人たちは調整に苦労したそうです。ただ学校生活については、「大丈夫そうだな」と思えたんですよね。というのも、移住して初めて中学校に行った時、子どもの下駄箱に紙の花と「ようこそ」と書かれた紙が貼ってあって、歓迎ムードを感じることができたんです。担任の先生や教頭先生も良くしてくださり、親の相談にも親身に乗ってくださいました。

奥さんも、移住後の新生活には大変さを感じていたようです。近所の方々は僕たちのことを知ってくださっているけれどこちらは全く分からず、かと言って「どなた様ですか?」とも聞きにくく、つながりを作りにくい状態でした。地域自体の人口密度が低いため話す人や機会が少なく、家族以外誰とも話さない日が続き、苦しさを感じることもあったようです。同じ町内会にいた民生委員の方のお声がけで一緒に近所の挨拶回りをしてからは、少しずつ町内会の集まりやゴミ掃除などのタイミングで、会話や交流ができ始めたようでした。冬は雪があっても車を運転しないと生活にならないため、そういう意味でも強くなったと思うと、話していました。

自分で考え答えを探す「ウッドミル田村」での仕事。相談できる人間関係に働きやすさを感じています

田村森林組合の木材加工センター「ウッドミル田村」では、「丸太を切る」「乾燥機で乾かす」「製材する」といった一連の作業が行われており、僕は加工を担当しています。お客さんのニーズに合わせ木材のサイズを加工したり、接合部分を作ったり、表面がツルツルになるように機械で加工したりするといった仕事です。実は加工ではなく伐採がやりたかったのですが、僕の場合、伐採技術がものになる頃には定年退職を迎えている可能性があるので、その点も考慮されての配属だったのではないかと考えています。

「ウッドミル田村」全景

就職して3ヶ月くらい経った頃、「まずやってみよう」と、機械を1つ任されました。簡単な作業から任せてもらったんですが結構失敗して。どれくらい力を入れたらどれくらい削れのるかが分からず難しかったですね、何度もやりながら感覚を掴んでいきました。機械関連の前職と同じく、木も寸法通りに加工しなければなりませんが、木材には癖があり思い通りにはいかないので、どうしたらうまくいくかを考えながらやっていきます。こうした、自分で考えながら答えを見つけていくやり方が、自分にはすごく合っていると思うんですよね。正解を言われるよりも、ヒントをもらって、あっちかな?こっちかな?と考える方が楽しめます。木材は加工に失敗しても別の用途に活用できるので、失敗OKというのがありがたいですが、真面目な性格で「失敗は許されない」と思いがちな人は辛く感じるかもしれません。

加工場での浅香さんのお仕事の様子
木材同士を組めるよう接合部をつけるのも加工の仕事

加工場はフレンドリーで飛び込みやすいです。一連の作業者が加工場に集って作業していますが、違う作業の担当者でも「何か困っているところある?」と、休憩中などに聞いてくれるんです。悩みを相談すると、「じゃあ休憩が終わったら見るよ」と来てくれます。気にかけてもらえる、相談できる人間関係があることが、安心して働くことにつながっています。今まで所属した職場の中で、一番働きやすいかもしれません。上司もたまに作業場に顔を出してくれるので、自分から仕上がりチェックをお願いすることもあります。

元空き家のご自宅は住みながらリフォーム。「無いものは、作ることができる」

住まいは空き家バンクで探し、たくさん見て回りましたが、自分たちで修繕できる範囲なのか判断に迷う物件も多く難航しました。今の家は見学時点ですぐ住める状態になっており、オーナーさんも親切な方で、ここならばと決めました。築46年経つ中古の純和風物件で、雰囲気を損なわないようにしたいと思いながらリフォームしています。トイレが土壁でとても寒かったので、土をはがし発泡スチロールの板を置き、ハレパネを入れ、その上に板を張りました。寝室も土壁なので同じようにリフォームを進めています。お金をかけず、できることは自分でやろうと考えています。まさにDIYの精神そのままですね。無いものは作ることができますし、それができる環境に今いると思っています。

トイレのリフォームの様子。木材を組んで、右の写真のように天井や壁を作る

移住や林業に興味がある方はまず現地へ!地元の方との会話がおすすめ

移住したいと思う方は、現地を見ることをおすすめします。実際に行ってみないと分からないことも多いし、人によって合う・合わないがあると思います。僕のようにイベントに参加する形でもいいと思いますよ。まず行って周りを見て、その上で本当に気になったら、自分たちのタイミングで改めて現地に行く時間を作るといいです。イベントやWebサイトでは良い面がたくさん取り上げられていますが、それが自分たちにとって本当に良い情報か、判断を入れた方がいいと思います。うちは林業体験ツアーの後、2022年4月ごろに滝根のチャレンジハウスを利用して地域を回りました。僕のおすすめは、地元の古いお店に行き、買い物をしながら会話してみること。僕たちは子どもの学用品が売っているお店に行って買い物をし、考えていることや困りごとなどをちょっと話してみたところ、親身になって力を貸してくださる方と出会うことができました。

林業に興味がある方は、まず体験ツアーに行ってみるといいと思います。実際に機械を持つのは危険なので、体験ツアーはどうしても見ることがメインにはなります。林業の世界に飛び込まないと分からない点は多いですが、それでも自分の足でフィールドに立ち、目の前で機械の扱いを見たり、話を聞いてイメージしたりするだけでも、全然違うと思いますよ。

仕事にリフォームに地域活動に…忙しいけれど無理なく楽しんでやっていきたい

チャレンジハウスにいた時、星の村天文台で開催された星空観察会に参加したのですが、真っ暗な空一面に広がる驚くような星空に出会い、とても感動しました。国際宇宙センターが通過するからと、参加者みんなで外に出て空を見上げたのも面白かったですね。満天の星空は、今住んでいる滝根の家でも見られます。流星群が来る時なんかは、家の軽トラの荷台に寝袋や毛布、お酒やつまみを持ち込んで、家族で星空観察をしています。家の敷地内で畑もやっており、昨年はネギやきゅうりやトマトなどを育てました。草刈りが大変すぎて、泣きながらやりましたね…。

リフォームや畑は土日を使ってやっていたのですが、今年は町内会の会長になったため土日も忙しくなり、やりすぎないように気をつけています。ゴミ出しの日の掃除や、葬儀のお手伝い、お祭りの旗揚げや山の神様を祀るといったイベントがたくさんありますが、自分としては町内の方々の顔を覚えられるし、コミュニケーションのための良い機会と捉えています。リフォームは早く終わらせたいですが、本業や地域のこともあるので、無理はしません。時間はたくさんありますから、ゆっくり楽しんでやっていきたいと思っています。

左から、純一さん、娘さん、奥様。息子さんは弓道部の休日練習のため学校へ

田村森林組合

住所:福島県田村市常葉町西向字堂ケ入62-7
電話:0247-67-1101
営業時間:月〜金: 8:00〜17:30
休業日:土・日・祝祭日
駐車場:あり
HP:https://tamura-forest.or.jp/
e-mail:info@tamura-forest.or.jp

ウッドミル田村(田村森林組合木材加工センター)

住所:福島県田村市常葉町西向字堂ケ入62-3
電話:0247-67-1017
営業時間:月〜金: 8:00〜17:30
休業日:土・日・祝祭日
駐車場:あり
HP:https://tamura-forest.or.jp/
e-mail:woodmill@tamura-forest.or.jp