現代美術家として故郷で叶えたい想い

佐藤 香/現代美術家

多拠点居住(田村市船引町出身)

ARTIST

私は、美術大学の進学をきっかけに生まれ育った田村市を離れました。2012年から現代美術家として活動を始め、主に日本各地で行われるアートイベントにおいて、滞在・制作をしながら多拠点生活を送っています。現在は、多拠点生活のひとつとして田村市で活動をしており、実家の作業場で作品制作に打ち込みながら、新たな生業づくりにも取り組んでいます。

美術を通して、福島の再生を目指す

私の制作スタイルは、2012年東京芸術大学卒業展にて発表した「私の故郷、福島」という作品で、東日本大震災の被害により汚染された実家周りの土を使用したことから始まりました。この作品を実家の周りの土で描いたのは、震災後、故郷に対して傷つくことも言われた中で、「私の故郷は目に見えない汚染にあっても美しいまま」ということを伝えたかったからです。汚染された土は、美術なら逆に武器になり、様々な人に見てもらうことができました。それ以来、その土地を体で学ぶことをポリシーに、滞在した場所の土・炭・植物など身近な自然素材を、絵の具または空間演出として使っています。その土地の文化は、昔の人の暮らしてきた証であり、それを知ることは先祖や土地ともつながること、そして今自分たちがどう生きているかを知ることにもつながっていると思います。私の作品を通して、人々が歴史や土地を知り、現在へのつながりに気づき、未来に向けて選択・決断するきっかけにしてもらうことで、福島の再生を目指したいと考えています。

古来の茅文化から新たな「生業づくり」へ

作品制作に活かせるかもしれないとの想いから、これまでに林業や茅葺(かやぶき)のアルバイトにも取り組んできました。昔からある茅葺という生業の新たなあり方に驚きと感銘を受け、美しいと感じるようになり、これから歩む道を切り開く「生業づくり」として茅葺事業への挑戦も始めました。これは、私なりの “未来に向けて選択・決断する” 行動として、大好きな茅文化を守り、福島の耕作放棄地や山の再生にもつなげていくものです。茅葺と言われると、おじいちゃんやおばあちゃんが住む古い家をイメージすると思いますが、今、茅は壁材に活用されたりするなど建築物において新たな価値が創出されています。私も、そんな風に茅の新たな活用方法を見出したいと考えています。この福島を再生するための様々な事業構想は、昨年度に田村市で行われた若手人材を育成するための講座で、市役所やコンサルの方々のご協力を得ながら作成したものです。現在は、土地を借りて整備することから着手しており、茅場を作ることを目標に取り組んでいるところです。今日も実は、午前中に草刈りをしてきたばかりなんですよ(笑)

あまり気張らずに、自分の気持ちに正直に

移住先を決めるにあたっては、やりたいことがないとしても、その土地の食べ物が美味しい、会いたい人がそこにいる、そんな理由でも良いと思うんです。知らない土地に住むって勇気のいることですし、住んでみて合わないことが出てくるかもしれない。多拠点生活を経験した自分だからこそ言えることですが「住んでみてダメだったら出ていこう」くらいの気持ちでも良いと思うんですよね。ここに住むんだ!と決めるよりも、そこに居たいと思えるきっかけをつくった方が自分が快適に暮らしていけるのではないかと思います。田舎での仕事探しについては、女性でも一次産業に向いている人って結構いるんじゃないかなと。体を動かす仕事は、汚れたり怪我をしやすかったりするなどのネックもあり、肉体的にはすごく疲れるのですが、事務作業に比べて頭がクリアになってスッキリする感覚があるんですよね。やりたい仕事が見つからないという人も、一次産業に関わってみて新たな発見を得てみるということは、個人的にはすごくおすすめ出来ます。

適度な距離感を保った関係性を築くことが大切

これまで色んな場所で活動をしてきましたが、地域ならではの人間関係の築き方というものがあると感じています。濃密な関係性には、メリット・デメリットがそれぞれあって、濃密だからこそ進むこともたくさんあるし、やりやすいこともある。逆を言うと、何か揉め事が起きたりすると居心地の悪さを感じるようになったりもする。集落によって性質や人間関係の作り方が違うので、だからこそ関わる人をどう選んでいくか、それを見極めることはすごく重要なことだと思います。私の場合は、「茅場が上手くいったら引継ぐから、どこでも好きな場所に行っていいんだよ。」と田村に縛らず背中を押してくれる人が居てくれたおかげで、気張らずに伸び伸びできているのですごくありがたいです。自分の新たな挑戦は、土地を10軒以上も一緒に探してくれた方や、挑戦する場を与えてくれた方たちの支えがあってこそ成り立っています。誰も知らなくて、気の合う人がいなかったら、コロナ渦とはいえど田村を出て行っていたかもしれないですね。なので、こんな風に地域で関わりやすいようにしてくれるコミュニティがあることはすごく大事だと実感しています。これを読んでくださった方にも気軽に田村市へ足を運んでいただきたいですし、私自身これからも地域の方との関わりを大切にしながら、自分の目指すビジョンに向かって進んでいきたいと考えています。

現代美術家 佐藤 香:公式HP https://kaori9655.wixsite.com/painter

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