「お腹も心も懐も豊かにできる仕事」を故郷の田村で。

白岩 洋/狼ノ神農園 代表

常葉町

FARMER

私は、大学進学を機に上京し、卒業後は映像の編集や配信の仕事に就いて14年間勤めたのち、2019年に田村に帰郷しました。現在そして将来を客観的に見据え、農家という生き方を選択し、2021年の現在は農家2年目としてミニトマトのハウス栽培を柱に、ふきのとうやブロッコリーの栽培も行っています。

ポストプロダクションから農家への転身を決意するまで

東京での仕事においては、管理職として責任ある仕事もさせてもらっていました。特に職場が嫌だった訳ではなく、そのまま続けていてもよかったんですが、長男なんで実家をどうするかという事はいつも頭の片隅にはありました。東京での生活を続けながら実家を別荘として利用するとか、親が居なくなった後に戻るとか色々考えた時に、早目に戻って両親が元気なうちに手伝ってもらいつつ、自分の思い通りにできる環境を整えた方がいいと思ったんです。今楽して後に大変な思いをするか、今苦労して後々を楽するか。どっちを選択すれば総合的に楽なのか考えて、故郷に戻ることにしました。最初から農業をやりたかったかと言うと…微塵もないです(笑)総合的に客観視し、ここで暮らすための生業として選んだんです。大切な判断を誤らないためにも、心はニュートラルにしておくことを心がけています。戻ろうと決めた時はウィスキー製造業の従業員も考えたんですが、思いつきで具体性やリアリティーが考えられず、自分がそこで働いているイメージが湧かなくて。それで祖父がタバコの専業農家をしていたので、土地や機械などある物を活かせないかと思ったんです。家の周囲も休耕地が増えていますので、戻ってきて生活の場にするのであれば、農業をしながら綺麗にしたいなと考えました。何より決め手になったのは、新規就農者への手厚い支援が受けられる体制(※)ですね。今のタイミングで田村で就農する事は、技術的にも金銭的にもアドバンテージがあると思い、農業もアリかなと思いました。

農業は「見えるようで、見えない。見えないようで、見える」曖昧さに付き合っていく面白味がある

実家の裏山を造成し、新たに栽培ハウス棟を建設し、今年から稼働しました。2年目の始めたばかりの農家としては、春から秋の栽培に注力して、経営の土台を固める事が先決かなと思っています。当初はミニではなく、普通のトマトを作ろうとしていたんです。農業研修でも技術を習っていましたし、売り方、品種、出荷時期など自分で選択できる幅が広い事、また田村でも作っている人も多いので、安心だなと思ったんです。ただ少し客観的に考えると、今の消費傾向だとすぐに食べられるミニの方が消費者には喜ばれていて、また収量が多い分人手は必要ですが、収益性が高くなり将来性があるなと思い直しました。今は少量多品種でミニを栽培している農家さんも多いですが、私は単一品種を栽培して、農協さんにより多く卸す事を当面の目標にしています。まずは収量を増やし、沢山売る事に注力していきたいです。最初は思ったんですよ。色々な品種や農産物を作りたいとかね(笑)けど自己満足で終わってもしょうがないですし、やっぱり農業で儲かりたいんです。儲けられると思ったから、始めた部分もありますしね。

「いかに普通で居られるか」が、人生のテーマ

仕事に対しての考え方や違いは、究極、全く変わっていないと思っているんですよ。どの仕事でも「いつまでに何をやるか、どういう状況でやるのか」だと思うんです。ただ扱う物が映像から農産物に変わっただけで、考え方は同じなんです。だから自分は、地域の方とか同業者の方を“エア(仮想の)上司”と想定しています(笑)私みたいなUターンして就農した身だと、作業や暮らしぶりを色々と見られているんです。ちゃんとやっていると周囲に認識されないと、自分がいくら儲かったとしても、やっぱり評価は得られない。そんな周囲や業者さんとの人間関係作りなど、会社員時代と何ら変わりはないんです。農業を続ける事に関して、なるべく不安とかギャップを感じたくないし、やっぱり失敗はしたくない。だからこそ自分のしている仕事への客観的な視点は、見失わないようにしたいです。今まで働いてきた会社っぽい考え方を取り入れて、自分を成長させるために最適な環境を作ろうとしている部分もあります。仕事がどんな職種であっても、都会でも田舎でも、やっぱり「当たり前(普通)」で自分自身居られて、楽しく生活できる事が一番。それを積み重ねていくためにも、やるべき仕事を日々、普通にこなす事が一番楽で着実な道筋だと思います。その歩みの先に、休耕地の整備や規模拡大、みんなの田舎作りがあると思っています。

※「田村地域就農支援プロジェクト」では、首都圏や仙台、福島での就農フェアへの出展や相談など新規就農のサポートを定期的に実施。プロジェクトでは就農希望者の研修受け入れから就農まで一貫したサポートを行っている。白岩さんも就農にあたり、研修や経営計画の作成などのサポートを受けた。

ライター:江藤 純