自分の夢につながる仕事を。都会の看護師から地方の空き家コーディネーターへの転身

佐久間 朱妙/地域おこし協力隊

船引町

UTURN

私は田村市の出身で、大学の進学を機に地元を離れました。卒業後は、東京や海外で看護師、保健師などとして働き、2021年、田村市地域おこし協力隊の空き家担当として、生まれ育った場所に戻ってきました。今は大切な家族と一緒に過ごせる時間がとても幸せです。

「人と違うことをしたかったら、人と違う努力をしなさい」が母の口癖

私の母は看護師をしていました。世にいう肝っ玉母ちゃんで、看護師という忙しい仕事をこなしながら、私たち兄弟3人を育て上げました。私たちはよく「人より努力しなさい」「人が寝ている間に努力しなさい」と言われて育ちました。その言葉は、東京で看護師をしているとき、そしてその後の私の人生においても強く影響しています。 初めて就職した東京の病院はとても忙しく、メンタル面でもとても鍛えられました。病院というのは病気、怪我をした人が来るところですが、働くうちに患者さんが病気や怪我をする前に自分にできることはないかと考えるようになりました。また1つの病院だけではどうしても世界が狭くなってしまうと感じ、転職。上海にある海外企業や東京の別の団体でも働きました。特に上海で学んだ徹底したリスク管理の方法や、東京で身に着けた「何でもやる」仕事のスタイルは、今の仕事でも役立っています。 そうして毎日忙しく働いていた頃、新型コロナウィルスが流行し始めました。ちょうどそろそろ実家の両親と一緒に暮らしたいと思っていたこともあり、また東京で高い家賃にお金が消えていくよりは、大切な人や自己成長のためにお金を使いたいという思いが強まり、Uターンを決意しました。

「タイミング」がきた!自分の夢につながる仕事との出会い

今の仕事が見つかったのは、本当に偶然でした。Uターンを決めてから職探しのために色々な団体へ問い合わせをしている中で紹介していただきました。 田村市の私の実家には、母屋の他に使われていない古い家があります。そこを何とかしたい、何かに有効活用したいという思いがずっと以前からありました。そして紹介いただいたのが地域おこし協力隊の「空き家担当」の仕事。自分のやりたいことにつながるし、おまけに職場は自分が通っていた母校をリノベーションした場所。もう運命ですよね。後はトントン拍子に話が進んでいきました。

単純な売買ではなく、「家と家主の想い」を引き継ぐ仕事

今の仕事の内容は大きく2つあります。1つは空き家の発掘、調査。空き家の情報があれば現地に行って写真を撮ったり、オーナーさんと連絡を取ったりして現状を確認します。2つ目は空き家を探している人への物件紹介。住居としてはもちろん、最近では起業にあたり事務所や店舗としての物件を探している方からの問い合わせも増えていて、そうした方に満足いただけるような物件を選び、現地を案内します。 この仕事を始めて10カ月程が経ちましたが、仕事の内容については概ね予想通りでした。ただ最近特に思うことは、家を手放すということは、持ち主にとってはそれまでの思い出、思い入れが詰まった場所とお別れしなければいけないということ。「あそこの庭の石はこの家に来た時に記念に置いた石なんだよ」「あのドアはお気に入りで、前の家からわざわざ持ってきたんだ」そうした話を聞くと、家の価値だけではなく、元のオーナーさんの想いも一緒に新しいオーナーさんへと引き継がなければいけない、そう強く思うようになりました。難しいところではありますが、「家と想いが次の人につながる取引」になるように心がけています。それがうまくいった時が、この仕事の最大の魅力であり、やりがいでもあります。

協力隊の仕事をライフワークに

建築家の父の力を借りながら、今後少しずつ実家の空き家をDIYなどで蘇らせて、空き家のモデルハウスを作ろうと思っています。空き家も少し手を入れるだけで販売価格が上がったり、希望者が増えたりします。そのことをオーナーさんに実際に見て確かめてもらい、売り手の意識を少しずつ変えていけたら、売る方も買う方も満足のいく取引ができると思います。 そのモデルハウスを事務所として、今の協力隊でやっている仕事を私のライフワークにしていきたいと思っています。今、家族みんなで知恵と力を出し合って、ワクワクしながら空き家活用の構想を練っているところです。何だか家族みんなが生き生きとし始めました。

「タイミング」で動くとすんなり決まることも。1歩踏み出す勇気を!

私の場合、田村市での仕事を探し始めた当初はなかなか良い仕事と出会えませんでした。でも一度タイミングがあえば、あとはトントン拍子に進んでいき、最終的には私個人の夢につながる理想的な仕事と出会えました。もし移住で悩んでいる方がいるなら、タイミングを大切にして、1歩踏み出してみてほしいと思います。同じ境遇、想いの人がいたら、私もぜひコンタクトを取ってみたいと思います。ここ田村で、お互いに刺激になるような関係になれたらうれしいです。 最後に、私が田村市に戻ってきて一番魅力に感じているのは、やはり家族と過ごす時間です。昔はたくましかった母が今ではとても可愛らしくなり、無口な父は帰ってきた娘とコミュニケーションを取ろうと一生懸命おしゃべりしようとしています。妹も先日実家に帰ってきたこともあり、そうした家族で過ごす時間が私にとってはとても大切ですし、日に日に家族への愛情が増していくのがわかります。とても幸せな時間です。