ビールの残り粕(かす)で作るイタリアパンに挑戦中!キッチンカーに乗る若手起業家「大島草太さん」

大島草太さん/株式会社Kokage 代表取締役

田村市都路町

福島の人や土地に魅了され、この地のために活動したいと立ち上がった1人の若者がいる。彼の名前は「大島草太」さん。大学生の時にフィールドワークで福島に赴いたことがきっかけで、福島の地産品を使った商品を販売するキッチンカー事業「Kokage Kitchen」で在学中に起業した。

最近ではクラフトビール醸造所から出るモルト粕(かす)を使ったお菓子の製作に取り組むなど、益々活動の幅を広げている。

挑戦を続けるために選んだ「起業」という選択

出身は栃木県宇都宮市。高校まで地元で過ごし、その後は教師を目指し福島の大学へと進学した。

せっかく福島に来たのだから地域のことをもっと知りたいと、大学1年生の頃から福島第一原子力発電所事故の被災地域でフィールドワークに参加していた。そこで出会った人はみんな温かく、想像していた以上に若者は活気に満ちていた。地域課題があるからこそ新たな挑戦も生まれやすい、そんな場所にいつしか大島さんはすっかり魅了されていた。

「この地域のために何が自分にできるだろう」

そう考え、出した答えは「地域の資源を使った商品を開発し、地域の魅力と共に日本全国、世界中に自ら伝えにいこう」ということだった。

実はそう思ったのには、もう一つ大きな理由がある。
大学3年生の時、1年間休学して訪れたカナダでの出来事。仲良くなった現地の友達に「福島から来た」と話した途端、態度が豹変したのだ。

「あれにはびっくりしました。当時は2017年で震災から6年以上が経っていました。それにもかかわらず『福島は人が住む場所ではない』『福島に住むおまえも汚い』というようなことを面と向かって言われたんです」

突然の友人の言葉にただただ驚くしかなかった。英語での日常会話は問題無くできていたとはいえ、福島の現状を正確に伝えるだけの英語力も知識もこの時はまだなかった。自分が住む福島、大好きな福島の現実を伝えられないもどかしさ、海外の福島のイメージが悪く誇張され定着しているという衝撃。

大島さんは「本当の福島を世界中の人に伝えたい」そう思うようになった。

クラウドファンディングで資金調達!手に入れた夢のキッチンカー

カナダから帰国後は再び被災地に通うようになり、地域住民との交流や意見交換の末に、川内村(田村市の隣)産のそば粉や田村市産の卵を使った「そば粉ワッフル」を開発、イベントで販売するようになった。

「今のそば粉ワッフルはバージョン30以上。常に味の改良をして、おいしいと言ってもらえるワッフルを研究し続けています」

売り上げは好調で、すぐに個人での販売額の限界を迎えた。これ以上は販売を減らすか、開業届を出し起業するかという選択を大島さんは迫られた。が、答えは決まっていた。

「被災地でのフィールドワークやカナダでの生活を通し、企業や団体に雇われて働くより、自由に何かに『挑戦』し続けられる働き方が自分には合っていると思うようになっていました」

その後、クラウドファンディングにより資金を調達。キッチンカーを購入し、大学在学中に起業した。

「キッチンカーを選んだ理由は、待っているだけではなく、自分から日本中会いに行けるから。少しでも福島の魅力を多くの人に伝えに行きたい」

移住したのは福島県田村市。複業によりさらに広がる活動の輪

起業後はキッチンカーでのそば粉ワッフルの販売を主軸としつつ、生活の基盤を作るため福島県田村市の地域おこし協力隊として着任。その後、田村市都路町でクラフトビール醸造所を営む株式会社ホップジャパンの本間社長の人柄や「循環型社会を作る」というビジョンに惹かれ、本間社長の元、クラフトビールの醸造士としても経験を積んだ。

「クラフトビールを作るのは初めてでしたけど、楽しくてしょうがないですね。同じレシピ、同じ材料で作っているにも関わらず、作り手によってほのかに味が変わるんです」

他にも福島大学の学生と始めたフルーツハーブティーの商品開発は業績が好調で、今後取り組む予定のクラフトジンなどの蒸留酒作りは、海外輸出も視野に事業を進めている。もちろんどれも主な原材料は福島県産だ。

「以前描いていた『福島の魅力を日本全国、世界中に届けたい』という夢が、ようやく現実になってきたという感じがします」

使われないものに新たな価値を。モルト粕を使ったお菓子作りに挑戦!

他にも今取り組んでいることとして、ビール醸造の過程で出るモルト粕を使ったお菓子作りがある。海外では「スーパーフード」とも呼ばれ、栄養価の高いモルト粕だが、日本では畑の肥料や動物の飼料、もしくは廃棄されることがほとんど。

「『活用されていない資源に今までにない価値を付ける』が自分のモットーでもあるので、モルト粕の使い道についてはずっと考えていました。そしてお酒に合うお菓子を作れないかと思ったんです」

プロのシェフにアイディアをもらい、試行錯誤を繰り返しつつ「グリッシーニ」というお菓子に仕立てることに成功した。「グリッシーニ」とは、カリッとしたスティック状のパンで、用意した味は「オリーブ」「ベーコンチーズ」「ハーブ」の3種類。商品は完成したが、製作には時間と手間がかかるため、どう生産性をあげ、収益につなげていくかが今後の課題だ。

「福島県ではお酒の製造施設がここ数年で増えています。製造の過程で出る果物や米、麦の粕というのは、コストが安いうえに大量に手に入るというメリットがあるんですよね。粕の食品利用に対する意見も賛否両論ありますが、栄養価など科学的な根拠も一緒に示すことで、より受け入れられるものになってくると考えています」

モルト粕を使ったお菓子作りがうまくいけば、今後はワインなど他の酒造りの過程で出る粕を使った商品開発にもつなげていきたいと、意気込みを話す。

「挑戦」を続けられる環境、活動を応援してくれる地域の人々

「やっぱり起業して良かった」と話す大島さん。時間を好きなように調整できるため、複業によりネットワークや知見を広げることができ、その経験をまた自分の事業へと還元することもできる。何より自分がやりたいと思ったことにいつでも「挑戦」できるというのは、起業の大きな魅力だ。

また人にも恵まれた。この地域には応援してくれる人がたくさんいた。

「自分が住む都路町には、いつも声をかけてくれる人たちがいます。特に『よりあい処 華』を営んでいる今泉ご夫妻には、ずっとお世話になっています。自分の活動を支えてもくれますし、ごはんをご馳走になったり、一緒に山菜取りに出かけたりと、職場以外の自分の心の拠り所にもなっています」

地域から愛され、地域のためにと活動する若手起業家は、今日も「挑戦」を求めてキッチンカーを走らせる。

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今泉富代さん(よりあい処 華)

本間誠さん(株式会社 ホップジャパン)

株式会社Kokage

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