やりたいことを、ずっと働ける環境で。納屋をリノベーションし、オシャレなごはん処を開業『渡邉ヒロ子さん・朱美さん』親子

渡邉 ヒロ子、朱美/ぷくぷく茶屋。

船引町

自然に囲まれ、近くには地元の守り神として親しまれる「お人形様」が鎮座する福島県田村市の芦沢地区。のどかな田園風景が続く県道沿いには、納屋を改装し、オシャレに生まれ変わったごはん処「ぷくぷく茶屋。」があります。運営しているのは、渡邉ヒロ子さん、朱美さんの親子。元々お惣菜などを製造する加工所「ママリン食彩工房」を営んでいたお2人が叶えたかった「自分たちのお店を持つ」という夢。

ぷくぷく茶屋。は、「母が元気なうちに母のやりたいことを」と願う娘の朱美さんと、「娘がずっと働ける環境を」と願う母ヒロ子さん、お互いを思う気持ちからできたお店。「おばあちゃんの作る家庭料理」を基本に、添加物や保存料を極力使わずに作る手の込んだ料理は、食べた人をホッとさせてくれる。

口コミで広がった噂を聞きつけ、今日もぷくぷく茶屋。には若いカップルや家族連れ、多くの人が手作りの味を求めてやってくる。そんなぷくぷく茶屋。を営むお2人に、これまでの、そしてこれからのことについて、お話を伺った。

母ヒロ子さんが始めた「ママリン食彩工房」

ぷくぷく茶屋。の運営元であるママリン食彩工房の活動を最初に始めたのは、母である渡邉ヒロ子さん。50歳を過ぎた頃に大病にかかり、それまで働いていた仕事を辞めざるを得なくなった。しばらくは家で療養していたが、直売所「ふぁせるたむら」で行われた加工品の製造、販売の研修に参加したことがきっかけで、平成18年に「ママリン食彩工房」(加工所)を立ち上げることに。

元々料理を作ることが好きだったというヒロ子さんが提供するのは、バリエーション豊かなお漬物やお餅、おはぎなど。特にあずきにこだわっているというおはぎは柔らかく、程よい甘さが食べやすいとあって、瞬く間に人気商品となった。

その頃の朱美さんは、東京で雑誌編集の仕事に就いていた。忙しいながらも楽しい日々を送っていたが、同時にその不規則な生活に「この仕事をずっと続けることは難しいだろうな」との思いを抱えていた。ヒロ子さんに相談し、「それならば」と自然な流れで「ママリン食彩工房」を一緒に立ち上げた。それまでも帰省する度に餅や漬物の加工作業を手伝ってはいたが、前職とは全く違う仕事内容に、試行錯誤の日々だった。

「品数が多い生産者」、「販売額」において優秀な成績を収め、表彰

朱美さんが主に担当するのは「パン・菓子」部門。

(ヒロ子さん)「娘が帰って来るなら、娘のポジションが必要だと思って。パンをやるなら、若い人の方がいいかなと」

元々パン作りが好きだったヒロ子さんが先生となり、朱美さんにパン作りを教え込んだ。人気商品の「まんま食パン」(炊いたごはんが入った食パン)を始め、今では朱美さんならではの、味と見た目にこだわったパンが販売されている。

当時ママリン食彩工房が提供する商品は、1日50種類以上にのぼった。「品数が多い生産者」、そして「販売額」でも優秀だとして、JAから表彰されるまでに成長した。

(ヒロ子さん、朱美さん)「新メニューも日々2人で研究しています。試食して、両方がOKを出さないとお店には出しません。「しょうがまんじゅう」やトマトとバジルを使った「トマトコロッケ」など、オリジナル商品もたくさん考えました」

今でもぷくぷく茶屋。の一角には、お惣菜やパンを買えるコーナーが設置されており、いつでも買うことができる。

「2人でお店をもちたいね」という親子の夢を現実に

ママリン食彩工房を始めて10年が過ぎた頃から、「2人でお店を持ちたいね」としばしば話すようになった。経営は順調だったママリン食彩工房だが、直売所の開店時間に合わせて商品を準備するため、その支度は夜中の2時頃から始まる。また販売先が直売所に限定されていることで、提供する商品にも色々と制限があった。

(朱美さん)「自分たちがおいしいと思ったものが提供できない、そんなもどかしさがありました。おいしいものを、もっと自由にお店に出したいなと思っていました」

(ヒロ子さん)「この生活をずっと続けるのは大変だなとは思いましたね。いずれ娘が1人で加工所をやることになった時のことを考えても、もっと人間らしい生活をしないと」

そうして、自分たちのお店を持つという夢が現実に動きだそうとしたその矢先、新型コロナウィルス感染症が急速に広がり、世の中が自粛モードに入った。「今始めなくても…」「こんな田舎でお店をやっても、すぐにつぶれるよ」そんな言葉を幾度となくかけられたが、渡邉さん親子の意思は固かった。

(朱美さん)「やるなら今しかないと思っていました。年齢のことを考えても、母親がやりたいことをやるには、これが最後のチャンスだと思ったんです」

そして2021年6月、ついに2人は念願の「自分たちのお店」を構えることになった。

古さを活かしつつ、若い人のモダンさを追求した「ぷくぷく茶屋。」

2人の夢であった「自分たちのお店」は、大工であった朱美さんのおじいさんが、納屋として戦後まもなく建てた建物をリノベーションして使うことにした。年季が入っているため、リノベーションより新築した方が安いと言われたが、2人はその古さにこだわった。

(朱美さん)「新築すると、どこにでもある建物と一緒になってしまって面白味がないなと思ったんです。古さを残しつつも、若い人のモダンさを取り入れた、そんなお店にしたいというのが、母と描いていたイメージでした」

内装にもこだわった。自分たちが以前住んでいた母屋を取り壊した際に出た柱を家具として仕立て直し、昔ながらの箪笥をサイドテーブルとして使う。椅子やテーブルは1組1組違った風合いをもち、それぞれが独自の「空間」を作り出している。全体をぱっと見た感じは懐かしい田舎の雰囲気を感じるが、個々の家具や装飾は、オリジナリティに溢れている。昔と今の魅力が見事に重なり「オシャレな空間」を作り出している。

(ヒロ子さん)「このお店は、私たち親子みたいなものです。昔ながらの性格と、今の性格を併せ持っているんですよね。不思議とお客さんも、娘世代と私世代の方、どちらも来てくださるんです」

「ぷくぷく茶屋。」という名前は、「満腹(まんぷく)」「幸福(こうふく)」2つの「ぷく(ふく)」から名付けた。最後の「。」は、ここで終わりという意味。来てくれた人たちが、満腹、幸福な状態で家に帰ってほしいという願いを込めて、この名前に決めた。

お店を構えたからこそ聞けるお客さんの「おいしかったよ!」

ぷくぷく茶屋。で提供している料理は、定食屋にありそうでない「さばの味噌煮」や「豚の角煮」(きまぐれメニュー)定食を始め、「蒸しセイロ」「おはぎ」定食といった変わり種まで用意されている。家にある材料で作れて、でも手間のかかる料理ばかりだ。

(ヒロ子さん)「料理のコンセプトは『おばあちゃんが作る、手間暇かけた家庭料理』。私のおばあさんがいつも七輪で炊いてくれていた料理を思い浮かべて、メニューを考えました」

中には、あまりのおいしさに、2階から厨房に立つ母ヒロ子さんのところまで降りてきて「お母さん!おいしかったよ!!」と声をかけてくれる人もいる。「どうやって作るんですか?」と聞かれることも多く、そんな時には快く作り方を教える。

(朱美さん)「お客さんの感想を直接聞けるというのは、お店をやって良かったことの1つだと思います。『おいしかったです』『今度は家族を連れてきます』そんな言葉をかけられると、明日もまたがんばろうという気持ちになります」

ぷくぷく茶屋。の噂は口コミで広がり、今では土日にはお店の前に列ができるほどだ。

「人生に、ほんの少しの豊かさを」が立ち上げ時のもう一つのコンセプト

普段は食事の提供を行っているぷくぷく茶屋。だが、年に4回、「めだかの学校」と題したワークショップも開催している。コケを透明な容器で育てる「コケリウム」や、草木染め、盛花(もりばな)、スパイスカレー作りなど、その内容は様々だ。

(朱美さん)「お店を立ち上げる時から、ここが地域の交流の場所になったらいいねという話を母としていました。お店のある芦沢地区の商店街では、以前は必要なものは何でも手に入ったそうです。それが今では、お店と言えば、酒屋さんを1軒残すのみとなってしまいました。そんな芦沢地区で、地域の人が集まる場所、近所の人と会うきっかけを提供できればいいなと思ったんです」

ワークショップは、渡邉さん親子が「楽しそう」「おいしそう」と思ったものを開催する。趣味や特技をもった知り合いに先生を頼み、教えてもらう。そもそもこの「めだかの学校」という名前は、童謡「めだかの学校」にあるフレーズ『誰が生徒か先生か』が気に入って付けた。自分の好きなことを活かし、ある時は先生に、そしてある時は生徒にと、誰でも気軽に参加できるワークショップにしたいと、この名前に決めた。

参加者は主に友達の紹介やSNSを通して集まり、コロナ渦で人数を制限していることもあるが、毎回10名程の定員でほぼ満員だ。

仕事でもプライベートでも、最強のパートナー

料理もイベントも、常に何かを提供し続ける渡邉さん親子。時には喫茶店でノートを前に、2人でコンセプトやアイディア出しなど2時間程話すこともある。だいたい最初のアイディアを思いつくのは母ヒロ子さん、そこに肉付けをしていくのが娘の朱美さんだ。

(ヒロ子さん)「仕事に疲れると、よく2人で旅行に行きます。『次、どこに何食べに行く?』って。そこで新しいメニューのアイディアをもらってくることもありますし、器が好きなので、新しい器を買って、お店で出すこともあります」

(朱美さん)「よく厨房で2人で言い合っていることもありますけどね(笑)それもお互い意見をぶつけられる存在ということでしょうか」

仕事でもプライベートでも、最強のパートナーの2人。今日も「手作りのおいしさを味わえるお店」「お客さんがゆっくりできるお店」であり続けるため、お2人の挑戦は続く。

ぷくぷく茶屋。についてのお問合せ

住所:船引町芦沢字梅ヶ咲40
TEL:0247-73-8336
営業時間:11:30〜16:00 (ラストオーダー15:00)
定休日:火・水曜日、第1・第4木曜日、年末年始
駐車場:有り
HP: https://www.instagram.com/pukupuku_chaya/

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