やりたいことを追求し続けてたどりついた福島の田舎町。ゼロからクラフトビールを作り上げる醸造士『武石翔平』さん

武石 翔平/ビール醸造士

船引町

BEER

秋田県北部、自然豊かな土地で生まれ育った武石さん。大学では有機化学について学び、専門を活かせる職場に就職した。就職後、偶然立ち寄ったバーで提供されたクラフトビールによって、その後の武石さんの人生は大きく変わることになる。そのあまりのおいしさからクラフトビールの魅力に取りつかれ、そのままビールの世界に飛び込んだ。そんな武石さんは、今ではクラフトビール工房を営む株式会社ホップジャパンの醸造責任者。昼夜問わず、ビールのことを考えている。

クラフトビールとの運命の出会い

大学を卒業後、茨城県つくば市にある企業に就職。特に問題もなく楽しく働いていた武石さんだが、運命の出会いは突然訪れた。転機となったのが、たまたま行った大阪出張。偶然入ったバーで、海外のクラフトビールを生で飲ませてもらった。その瞬間、ビールに対する価値観を変えられた。それ程おいしいビールを飲んだ武石さんは、お店を出る頃にはすっかりクラフトビールの魅力にとりつかれていた。

もっとクラフトビールのことを知りたい、自分で作ってみたい。クラフトビールが飲めるお店やイベントを巡るうち、そんな思いは大きくなり、ついには転職することを決めた。

毎日が勉強。今に続く修行の4年間

とはいえ、当時はまだクラフトビールの需要というのはそこまで高くはなかった。就職先を探すのに苦労する中、「やる気があるなら雇うよ」と声をかけてくれたのが、イベントで出会った埼玉のビール会社。それから2年間、この会社では醸造と税務書類の作成以外、すべての仕事をこなした。イベントの出店から始まり、営業も、お酒を作るプロセスもコツも、ここで教えてもらった。できてまもない会社だったため本当に忙しかったけれど、それでもクラフトビールの知識が深まる毎日がうれしかった。

ただ、だんだんと当初の希望が再燃。「自分でクラフトビールを作りたい」その希望を素直に社長に伝えたところ、ステップアップとして栃木県にあるビール会社を紹介してくれた。ちょうどその時いた醸造士が退職するということで、今度は栃木県で、念願だった「醸造士」としてクラフトビールに関わることになった。

栃木のビール会社では、武石さんに加え醸造は未経験という2人と共に3人でのスタート。前職でクラフトビール作りに携わっていたとはいえ、場所が変われば作り方や設備も変わる。慣れるまでに時間はかかったが、ついに武石さんも自分でクラフトビールを作れるようになった。また同じ年代の醸造士3人だったので、作ったビールを飲んでは意見をぶつけ合い、新しいビールを作り上げていくことの面白さも知った。

既存のお酒作りだけではなく、新ビールの提案、イベント出店、営業回りなど、新しい挑戦を色々と始めた矢先のことだった。武石さんが所属する事業の閉鎖が決まった。

新たな仕事場は、生ホップがきっかけで見つかった

栃木で働いていたころ、クラフトビールを飲みにアメリカに旅行に行った。そこで大阪のバーで味わった「あの感動」を、再び体験することになる。アメリカではちょうどホップの収穫時期だったため、あちこちのイベントで生ホップを使ったビールを提供しており、武石さんも初めて飲んだ。それまでは、生のホップを使うと見た目通り草っぽい感じがするんじゃないかと、あまり魅力を感じていなかった。それが実際に飲んでみると「おおげさじゃなく、どれもこれも本当においしいんですよ!!」そこからは、生ホップを使ったクラフトビールに夢中になった。

次の仕事場を探していた武石さんがこだわったのが、生ホップを使ったクラフトビールを作らせてくれるところ。それにヒットしたのが、現在働いている「株式会社ホップジャパン」。ブルワリーのオープンを間近にひかえたホップジャパンは、田村市の中でも特に豊かな自然に囲まれた田園地帯に位置している。不安はなかったのか聞いてみると「思ったよりも山の中で、おぉーっ!とは思いましたけど(笑)でもなんだか自分の実家(秋田県)の様子に似ているなと思いました。自分は住む場所にはあまりこだわりはないです。むしろやりたいことができないのが一番しんどい」と語った。確かに、ビールのことを話している武石さんは本当に楽しそうだ。

企画段階からの参戦。ゼロからビールを作り上げる

「ホップジャパンの魅力は、本当に自由に、好きに作らせてもらえるところ」と武石さんが話す通り、今ホップジャパンにあるビールは全て武石さんが試行錯誤の上に作り上げたもの。そもそもホップジャパンのブルワリーがオープンするよりも前に武石さんは働き始めたため、最初の仕事は「どういうお酒を作るのか」を考えることから始まった。

ホップジャパン代表の循環型社会(1次産業から6次産業化に繋げていくサイクルを一つの街で展開すること)への想いや陰陽五行を製品のテーマにしたいという話を聞いた時は、おもしろいなと思った。それから工房のオープンまでは、陰陽五行(陰陽、土火水木金)のイメージに合わせた製品はどういうものか、近づけるにはどうすればいいのか、ひたすら調べて考えた。土…黒…黒ビール?ホップが効いた黒ビールはどうか?もっとイメージ通りになる原料があるのではないかと、モルト1つにもこだわった。

そして3か月ほどかけて、基本となる7つのクラフトビールを作り上げた。今ではそれらに加え、限定品も季節や仕入れの状況によって作っている。工房にある発酵タンクは1000リットルのものが6個、2000リットルが2個。今は全部フル稼働だ。

ビール作りの苦労と魅力

工房で働く時の武石さんの表情は、とても真剣。「ビール作りは、真剣勝負。工程によっては1分、2分、目を離しただけで味が変わってしまう。だから段取りや、事前準備がとても大切な仕事なんです」「熱湯や薬品を扱うからこそ、同僚への指示や伝言は明確に、正確にしなければ危険が伴います」その話から、どれだけ武石さんが真剣にビール作りに向き合っているかが伺える。「醸造士っていうとかっこいいイメージを持つ人が多いかもしれないけど、9割9分は掃除や消毒などの地味な作業です。ビールを作る姿が見られるのはたった1日」

それでも、そのビールを作る一瞬が楽しくて仕方がない。自分が考えたレシピ通りの味が出せた時の満足感、そしてそうして作ったビールを色んな人に飲んでもらって、「生ホップのクラフトビール」のおいしさを多くの人と共有できる瞬間がこの仕事の最大の魅了だ。

「年間を通じて生ホップを使ったクラフトビールが飲めるのは、日本でもめずらしい。だからこそ、ホップジャパンが先導役となって、そのおいしさ、魅力を伝えていきたい」と語る武石さん。いずれは生ホップを推進する団体での研修や講演なども行い、日本全体で生ホップを使ったビールを盛り上げていくのが今の目標。「作るだけじゃなく、自分は飲むのも大好きなんですよ。日本全体で生ホップのビールを盛り上げて、誰かが作ったおいしいビールを自分も飲みたいんです」

クラフトビールを飲めるバーをやってくれる人大歓迎!

これから移住を検討する人に向けて、武石さんからもらったアドバイス。「まずは一度来てみるのがいいと思います。人は温かいし、野菜はたくさんもらえるし。おいしいビールもあります。ただ自分の場合でいうと、お酒を飲むのも大好きなんですけど、クラフトビールを飲めるバーが無い!だから、そんなバーをやってくれる人がいたら大歓迎です(笑)そうしたことも含め、ここはこれから何かを始めようとしている人がまだまだいるので、どんどん楽しくなっていくと思います。そんな魅力もぜひ感じてほしいなと思います。僕と一緒にビール飲んでください!!!!!」

おまけ:ホップジャパン醸造責任者おすすめの製品トップ2を紹介

1.あぶくま高原麦酒

酵母以外、原材料のすべてを田村市産にこだわった限定品のクラフトビール。田村市産の原材料を使っているのに、味はまるでアメリカの伝統的なクラフトビール。武石さんが毎日飲みたい!と語るビール。

2.Abukuma GREEN

田村市産ホップ100%のクラフトビール。ホップジャパンの中でも人気の商品で、数週間~1か月に一度は仕込む。武石さんが常に挑戦を行うビールでもあるので、仕込みの度に毎回違う味が楽しめる。