未経験からのキッチンカー起業。脱サラして「家族との時間」を選んだ『河津宏さん』

河津宏さん/キッチンカーむすびめ

田村市

「気づいたら、子どもと1か月顔を合わせていませんでした」

福島県田村市でキッチンカー「むすびめ」を営む河津宏さん。

2024年9月に約25年間務めた会社を辞め、千葉県から妻と5人の子ども(1人は生後1ヶ月)と一緒に田村市へと移住しました。

サラリーマン時代、管理職を任されていた河津さん。早朝から深夜まで働き、休みはほとんどありませんでした。

収入面での心配はないものの、仕事の現場に関われない辛さや、家族に会えない寂しさを抱えていたある日、ぽつりと「仕事辞めたいな……」と奥さんに漏らしたところ、返ってきたのはあっさりとした一言。

(奥さま)「辞めれば?」

「『え!いいの!?』と思って。速攻で辞めました(笑)」

「不安がなかったわけではないけど、一度決めたらやる人だから」と笑う奥さん。どうせなら楽しく仕事をしてほしいと、河津さんの申し出を快く受け止めてくれました。

この瞬間、河津家の新しいページがめくられました。

「子どもをのびのび育てたい」から始まった移住の話

これからの生活をどのようなものにするか、河津さん夫婦は何度も話しました。

・子どもがのびのびと過ごせる場所で暮らしたい
・震災の影響が残る福島県に何か貢献できないか
・何よりも、これからは家族での時間を大切にしたい

「次にやる仕事は、時間に縛られない、人に縛られない、ルールに縛られない、つまりはサラリーマンの真逆がいいと思っていました。理想は古民家でのものづくり。とりあえず色んなウェブサイトを見て、条件に合う古民家を探し求めました」

そうして出会ったのが、田村市にある一軒の古民家でした。

築100年以上。元々の所有者は地元でも力のある方だったようで、なんと敷地内にあるトイレは全部で5つ。広大な庭には東屋が立っており、まるで公園です。

もちろん水回りは改修が必要で、雨漏りや隙間風もあったため、それなりの修繕は必要でした。

「それでも、千葉県に住んでいたころは家の目の前が大きな道路で、子どもだけで遊ばせることはできませんでした。今、庭で自由に自転車に乗り、走り回る子どもたちの姿を見ると、後悔はありません」

奥さんは、お隣のおばあちゃんに畑仕事を教わりながら野菜づくりを始め、今ではキッチンカーで提供する大根は自家製です。

「サラリーマンの真逆」を求めてたどり着いたキッチンカーという仕事

家族と過ごす時間を守るため「サラリーマンの真逆の仕事」をしようと考えていた河津さん。「古民家でのものづくり」が理想ではありましたが、偶然田村市が募集していた「田村市キッチンカー移住チャレンジ」(※注釈)が目に入りました。

※「田村市キッチンカー移住チャレンジ」とは…
田村市に拠点を移して新たなキッチンカービジネスにチャレンジしたい人、田村市の産品・魅力を発信する人を応援するプロジェクト

「キッチンカーだと、出店場所や勤務時間を自分で決められるし、上司や部下もいない。サラリーマンの真逆だなと思って。よし、やろうと思いました(笑)」

飲食業は未経験。それでも、車1台で始められ、お客さんとのコミュニケーションを楽しめるキッチンカーは、河津さんの理想に近いものでした。

無事に面接を通過し、いざ、開業に向けた準備が始まります。準備段階では、伴走支援を行うprove LiFE.LLCが、キッチンカーの手配や事務手続き、商品開発のアドバイスや営業の流れまでをサポートしてくれました。

「事前に伴走支援でできること・できないことを説明してくれたので、事業の開始前後でのギャップに悩んだり、不安を感じることはなかったですね。サポートが丁寧過ぎて、時には『もういいよ!』とツッコみを入れたくなることはありましたけど(笑)」

「むすびめ」に込められた人と人を結ぶという思い

今では河津さんと奥さんを中心に、保育所が休みの日には子どもたちも連れて、キッチンカーを運営しています。

「普段は子どもたちは保育所なので、いつ呼び出しがかかっても大丈夫なように、田村市や近隣市町村を中心に、イベントや店舗の駐車場などで営業しています」

屋号の「むすびめ」には、「人と人の良縁を結びたい」という思いを込めました。そのため、提供しているのは「おにぎり」ではなく「おむすび」です。

2025年3月にデビューしたキッチンカー「むすびめ」の認知度はこの1年でどんどん上がり、今では顔見知りやリピーターのお客さんも増えました。

「『むすびめ』が大事にしていることは、お客さん一人ひとりと、ちゃんと話すことですね。お客さんと話をして、おむすびを食べてもらって、お客さんが『なんだか元気出た』と感じてもらえるやり取りを大切にしています」

コミュニケーションが得意なのは奥さんも同様。買いに来てくれたお客さんとの会話から、どんどん友達の輪を広げています。

「友達は……増えましたね。千葉にいた頃より多いかも」と奥さんは笑います。

子どものことを考えた末に決めた「おむすび」

キッチンカーで提供するメニューをおむすびに決めた理由。

それは「自分の子どもに、何を食べさせたいか」を考えた時、いきついた答えだったから。小さな子どもだけではなく、おむすびなら年齢を問わず、誰もが食べやすいというのも理由の1つです。

おむすびに使う食材は、自分たちが「おいしい」と思ったものだけを厳選しています。特にお米は、田村市の農家さんが作る白米を使用し、市内の農家「福福堂」の黒米を、オリジナルの配合でブレンドします。

黒米は元々古代米と呼ばれており、栄養価がとても高いお米です。子どもの健康にもいいため、河津さんは白米と黒米をブレンドしたオリジナルのおむすびを考案しました。

むすびめの1番の人気メニューは「たらこクリームチーズ」。大葉が特徴の「さっぱり大葉ツナマヨ」も人気です。

今話題のおむすびといえば「梅まみれ」。昨年、夏季限定で販売したのですが、評判がよくて復活しました。

むすびめで提供しているおでんとおむすび(左から「さっぱり大葉ツナマヨ」「梅まみれ」「たらこクリームチーズ」)

「家族との時間」を守るために重ねる改善

その日の気温や湿度によってお米の浸水時間を調整しているため、出店の準備は毎朝5時半から始まります。夕方は16:00頃まで出店。

キッチンカーデビューとなった昨年は、少しでも多くの人にむすびめを知ってもらおうと出店回数を重ねました。
その結果、ほとんど休みがなくなってしまい、家族との時間が削られてしまったのも事実です。
だからこそ今年は「出店回数」より「1日の売り上げ」を意識し、働き方を見直す予定だと河津さんは言います。

「この1年でむすびめの認知度はかなり上がったと思うので、今年は働き方を変えて、家族との時間をしっかり確保しようと思います。」

有言実行。年が明けてからは、まとまった休みもしっかり確保しています。
「家族との時間を大切にする」移住の目的は今もしっかり胸に刻んでいます。

移住検討者の方へメッセージをお願いします

「何のために移住してくるのか、それだけは絶対に忘れないでください。

100%満足な暮らしはありません。自分の場合、移住した目的は『子どもたちを広いところで遊ばせたい』『家族と過ごす時間を作りたい』という思いが原点なので、移住に後悔はありません。

1つ現実的なアドバイスをするなら、古民家は、想像以上に寒いです。住む家はよくよく調べてから移住することをおすすめします(笑)」

キッチンカーむすびめ

連絡先(Instagram): https://www.instagram.com/foodtruck_musubime/
出店日時・場所: 随時Instagramでお知らせします。

RECOMMEND

震災で破損した巨大望遠鏡。どん底から救ってくれたのは、日本中、世界中の星仲間だった。星に取りつかれた天文”楽”者「星の村天文台」台長『大野 裕明さん』

やりたいことを追求し続けてたどりついた福島の田舎町。ゼロからクラフトビールを作り上げる醸造士『武石翔平』さん

国家公務員が転職した先は林業の世界。「稼げる林業」「100%安全な林業」を目指してたどり着いたアーボリストという職業「久保優司さん」

「なんとかなる」で乗り切った1か月でのドタバタ移住!東京のIT企業から地方のクラフトビール醸造所への転職『河本凪紗さん』

IT業界から転職し、30代で新規就農。「2階建て方式」「年俸制」を取り入れ効率・働きやすさを追求した農業法人 代表取締役 『佐藤正典さん』

地域おこし協力隊の経験を生かし、地域づくりの新しいステージへ!『中山真波さん』

首都圏から移住。子育ても仕事もあきらめない!産後の悩みを力に変えて、シェアキッチンとクレープ屋を始めた『名嘉村まりこさん』

古民家を活用したレストラン兼コミュニティスペースを運営。とめどない愛と活力で地域内外の人を「家族」にしてしまう『今泉富代さん』

ふるさとで改めて感じる“ふつう”の暮らしの心地よさ

昆虫課の課長はカブトムシ!?人と虫が共存するまち・田村市で「カブトン課長」がこの夏の冒険スポットを紹介!虫好きキッズは要チェック!

前へ
次へ