26歳で「きゅうり農家」として独立!農業の可能性を感じ、東京から福島へUターンした『佐久間 和輝さん』
佐久間 和輝さん/きゅうり農家
船引町
田村市にUターンし、今年4月にきゅうり農家として独立した佐久間 和輝さん。田村市船引町生まれの26歳で、現在は奥様と2人のお子さんと共に4人暮らし。独立1年目ながら、6棟のハウスと露地できゅうりの栽培を手掛け、地元スーパーや農協への安定した出荷を実現している佐久間さんにお話しを伺いました。
Uターンした背景と農業への転機
20歳で上京。飲食店やアパレルブランドを手掛ける大手企業に就職し、カフェ&バーに配属されました。当初はアパレル部門への異動を目指して意欲的に働いていましたが、コロナの影響で部署間の異動が停止。収入も激減し、高い家賃に悩む日々が続きました。「このままではいけない」と考え、地元に戻る選択肢を真剣に模索しはじめました。
農業を選んだのは、当時一緒に働いていたパートの女性との会話が大きなきっかけです。彼女は実家がぶどう農家で「農業をやりたいけど、東京では土地の確保が難しい。親の稼業を継ぐのも良いけど、自分でゼロからスタートしてみたかった」とよく話していたんです。その言葉を聞くうちに、自然と農業に興味を持つようになりました。
自分の地元に目を向けると、田村市には十分な土地があり、スタートしやすい環境が整っている。同世代では挑戦する方も少ない分、チャンスがあると感じました。「農業で食べていける」と確信を持ち、農家になる道を選びました。
1年半の研修期間を経て、今年4月に独立。研修先だったきゅうり農家との出会いが、今の自分に繋がっている。
2022年10月にUターン。就農への一歩を踏み出すため、まずは農業普及所を訪れました。就農を始める時期や育てる作物について具体的に相談でき、研修先である農家さんとのマッチングもサポートしてくれます。
私は2023年4月から1年半にわたり、2つの農家で研修を受けました。従業員の一員として働きながら、実践を通じて農業を学ぶ仕組みです。
1年目は、田村市で多品目栽培を行うJAアグリサポートたむらさんで、作物の生育管理やトラクターの操作、農薬の使い方を学びました。トマト、ブロッコリー、とうもろこしなど多品目の栽培に触れる中で、視野が広がる感覚を味わいましたね。
2年目は、隣町の広い敷地で大規模にきゅうりを栽培する株式会社OFs-Linkさんで研修を受けました。ここでは、売り先の確保や経営方法について徹底的に勉強。研修中、私は社長に遠慮なくしつこいくらい質問を投げかけ続けていました。その熱意が伝わったのか、今でもかわいがっていただいています。
社長は、きゅうり栽培における1ヵ月あたりの売上や人件費、ハウスの維持費など、具体的な数字に基づいた経営のリアルを教えてくれる方でした。独立した今でも、社長には頻繁に相談しています。「こういう症状が出たんですが、どう対処されていますか?」「葉に元気がないときは、どの農薬を使うべきですか?」など具体的な質問から、きゅうりの写真を見せてアドバイスをもらうことも。この研修先との出会いが、今の自分を支える原動力になっていると感じます。
研修中~独立前に活用した行政の金銭的支援
研修中は「農業次世代育成人材投資資金(準備型)」を活用しました。この制度では、新規就農者が年間1,200時間以上の研修を行うことで、国から150万円の補助金が受けられます。とはいえ、年間150万円で生活をまかなうのは簡単ではありませんでしたね。研修中に支えてくれた家族には、本当に感謝しています。
パイプハウスの建設には、福島県の「原子力被災12市町村農業者支援事業」を活用しました。建設費用の4分の3を補助してもらえる制度で、パイプハウス建設にかかる3,000万円のうち2,250万円を補助していただき、融資を受けるのは残りの750万円で済みました。田村市農林課の方が、補助金書類作成をはじめ、細かい手続きまで厚くサポートしてくださり、スムーズに申請を進めることができました。
※本事業は令和6年度で終了する可能性があります。詳細は田村市役所 農林課へお問合せください。
今年4月にハウスが完成。きゅうりの栽培が始まった。
現在はきゅうりに絞って栽培しています。きゅうりを選んだ理由は、収益性の高さですね。トマトは1本の苗からおよそ60個の実が収穫できると言われていますが、きゅうりの場合、うまくいけば200〜300本が採れるんです。人件費やハウスの維持費といった経費を差し引いても、十分な利益が期待できる。きゅうりの収益性に手ごたえを感じたことが、大きな決め手でした。
たった2時間の睡眠時間で畑に出ることも。「頑張れば必ず結果が付いてくる」という実感で乗り越えた。
きゅうりの栽培期間は4月〜12月と長いですが、夏場が特に忙しい時期です。1日におよそ500kgから1tほど収穫することもあります。
出荷先ごとに規格が決められており、たとえば長さは25cm以内、太さは3.5cm以内といった基準があります。きゅうりの成長は非常に速く、夏場は1日で約5cm伸びることもあります。そのため、たった1日収穫し忘れるだけで規格外となり、出荷できなくなることも。そのリスクを防ぐためにも、露地栽培では朝夕と1日2回、欠かさず収穫作業を行っています。 睡眠時間は2時間で、それ以外の時間はずっと畑、という時期もありましたね。
それでも、農業の魅力は「頑張れば必ず結果が付いてくる」という点です。成長の早さゆえに大変なことも多いですが、この実感があるからこそ、つらい作業も乗り越えられました。
原因不明の病気が流行。失敗も「来年の農薬ルーティン」を考えるチャンスに。
今年の夏、原因不明の病気がきゅうり全体に広がり、思うように収穫できませんでした。最近になって、ようやく既存の病気の一種だということが判明。元研修先の農家さんと「来年は農薬をかけるルーティンを組めば問題は解決できる」と話し合い、対策を進めています。
就農1年目から2年目は、特にメンタル面で厳しい時期とも言われます。でも、農業に失敗はつきもの。そこで気持ちが沈んでしまう人と、試行錯誤をして次に備える人では、大きな差が生まれると思います。
幸い、研修先のきゅうり農家で精神面についても教えていただいていたので、失敗しても精神的なダメージはそれほどありませんでした。むしろ失敗を糧に「次はどうするか」を考えるチャンスだと思っています。
3つの山々に囲まれた田村市は、寒暖差が大きく安定して野菜を育てやすい地域
3つの山々に囲まれた田村市は、夏でも涼しく、昼夜の寒暖差をしっかりと感じられる地域です。この寒暖差こそが、野菜に甘味や栄養素を蓄えさせる理想的な環境を生み出しており、「田村市は安定して野菜を育てやすい地域」だと評価される理由だと思います。
農業ならではの魅力は「頑張りが数字に反映される」こと
農業で一番達成感を感じる瞬間は、「収入明細を見たとき」ですね。栽培にかけた頑張りがそのまま数字に反映されるのは、農業ならではの魅力だと思います。結果が目に見える形で表れるので、日々のやりがいにも繋がっています。
また「時間の融通が利きやすいこと」も魅力の1つ。決まった時間に出社する必要がないので、自分の好きなペースで働ける自由さがあります。ただし、天候に左右される面もあり、夏場は朝5時から作業を始めるなど拘束時間が長くなることも。就農を考えている方は、この現実も知っておいてほしいなと思います。
さらに、魅力として挙げたいのが「農家同士の横の繋がり」です。他の業種と比べても、助け合いの場面が多い。農協さん経由でベテラン農家さんを紹介してもらえたり、元研修先のきゅうり農家さんと今でも繋がりがあることに、心強さを感じます。
特に、お世話になった農家さんから頼りにされるときは嬉しいですね。例えば出荷量が足りないときに自分がサポート出来ると、これまでの受けた恩に少しでも応えられた気持ちになります。
田村市における農業の課題は「消極的な地域性」
個人的には「現状維持を目標とする傾向が強く、大きな収入を目指す方が少ない」点が課題だと思います。農業が活性化すると、地元での消費や農業関連産業の活性化を通じて、他の産業にも好影響を与えると言われています。地域全体で農業に対する意識を変え、世代を問わず農業に巻き込んでいければなと考えているところです。
独立1年目にして、4つの得意先へ出荷
独立1年目は農協への出荷が一般的とされており、1年目から4社と取引するのは珍しいようで、驚かれることも少なくありません。これも、元研修先の農家さんとのご縁があったおかげだと感じています。
複数の得意先を持つことは、収益性を高める上で非常に重要。たとえば、A社の出荷価格が2,000円、B社が3,000円となった場合、A社への出荷を抑えてB社に多く出すという柔軟な判断ができる。取引先が複数あることで、出荷量の調整がしやすくなり、リスクを分散できるのも大きなメリットです。
今後の展望「多様な人材を農業に巻き込みたい」
性別や世代を問わず、田村市全体を農業に巻き込んでいきたいです。いずれは自らが農業研修の受け入れ先となり、自分がサポートしてもらった経験を活かして、ノウハウを教える立場になりたいと思います。
また、多様な人材を農業に巻き込む方法として「子育て女性の活躍」を挙げたいです。農業は力仕事以外にも常に何かしらの仕事があるので、手の空いた時間だけでも手伝ってもらえるとすごく助かります。1日4時間の短時間勤務や子連れ出勤が可能な環境を整えれば、子育て女性や専業主婦の方にこそ、働きやすい仕事になると思います。
もう1つは「地元小学校との協力」です。小学校と連携して、子供たちにサツマイモの植え付けや収穫などの農業体験をしてもらう計画を考えています。小さい頃から農業に触れることで、農業への関心や興味が生まれ、将来農業に携わる人が増えてくれれば嬉しいですね。また、学校給食に規格外の野菜(曲がってしまったきゅうりなど)を提供することも検討中です。こうした取り組みが、地域全体で農業を支える一歩になればと思っています。
農業は稼げないというイメージがある方が多いと思いますが、決してそんなことはありません。むしろ頑張っただけ収入に反映される夢のある仕事です。農業は決して遠い世界ではありません。ぜひ一歩踏み出してみてください。
田村市イベント情報
田村市では、農家さんと直接お話しができるオンラインイベントや、オーダーメイド型農業体験などを開催しています。田村市での農業を実際に体験して、新規就農の具体的なイメージを描いてみませんか?
▼希望に沿ったプランでできる!オーダーメイド型農業体験はこちら
https://tamura-ijyu.jp/event/2864/
▼イベントの最新情報
https://tamura-ijyu.jp/event/