「風評被害にあった福島県のお米の美味しさを、多くの人に広めたい!」そんな想いからスタートした お米と発酵 Cafe&Shop『nda焙』

nda焙

船引町

ある日の福島県田村市。船引町の市街地を走る国道288号線を左に折れ、少し進んだ先で、ふと目に留まるカフェを見つけました。

ここは2023年10月にオープンした「nda焙(んだばい)」。福島県産のお米の美味しさを、多くの方に届けたい――。そんな想いを持つ二人の女性、田村市に隣接する郡山市出身の橋本妙子さんと東京都出身の篠﨑加奈さんが始めたお店です。

今回は、メニューの考案や厨房での調理をメインに担当する篠﨑さんに、オープンに至るまでの経緯や、お米へのこだわりについて伺いました。

お米と発酵がコンセプト!カフェ「nda焙」とは

お米と発酵がコンセプトのこのカフェでは、玄米を自家焙煎して作る玄米コーヒーをはじめ、米粉トーストやライスバーガーなど、まさに「お米が主役」のメニューを存分に楽しむことができます。

カフェの名前は「nda焙」と書いて「んだばい」と読みます。「んだばい」とは福島の方言のひとつで、「そうだね」と相手の話を肯定するときに使います。訛りと「焙煎」を掛け合わせたこの店名には、「東北の会社であること」そして「前向きに肯定する」という二人の想いが込められています。

ドリンクもランチもお米が主役!nda焙のこだわりのメニュー

nda焙名物の玄米コーヒー

見た目はコーヒーにそっくりですが、味わいはまったくの別物。玄米茶のような香ばしさがあり、口に含むと優しい甘さが広がります。最大の魅力は「カフェインフリーで体に優しいこと」。さらに鉄分が豊富でデトックス効果も期待できるのだとか。
「福島県を中心に全国から選んだ玄米を、焙煎機で3〜5時間じっくり焙煎して作ります。お米の品種によって味が変わるので、お米ごとの個性を楽しんでもらいたいです。」
使用する玄米は、田村市の菅野農園さんや西郷村のゆば工房さんなど、福島県を中心とした米農家さんから仕入れたコシヒカリやひとめぼれ。
「農家さんにとって、自分たちのお米の個性が伝わるのは嬉しいことだと思うんです」と篠﨑さん。そんな想いから、仕入れた玄米はひとまとめにせず、それぞれ名前や特徴が分かるように工夫しているそうです。

米粉トースト

こちらは、モーニングで大人気の米粉トースト。外はカリッ、中はもっちりで、食べ応えが抜群です。噛めば噛むほどに、米の甘味がじゅわっと広がります。自家製の発酵あんこやはちみつ、なつはぜジャムをたっぷりかけていただきました。

ランチメニューで人気なのは、青唐辛子のピリッとした辛味が効いたタイカレー。白米と玄米を使った2種類の米粉麺と一緒に楽しめます。辛いものが苦手な方でも思わず「もう一口」と食べ進めてしまう、やみつきになる味わいが魅力です。さらにランチやモーニングには、発酵尽くしのサラダが付いてきます。この日は、玉ねぎ麹で味付けされた大豆や、りんごの酢漬け、アントシアニンたっぷりの紫じゃがいもなどが添えられました。
「体に優しいものを食べてほしいという想いから、お米と合わせて『発酵』もテーマにしました。地元農家さんを応援するためにも、田村市や福島県産の野菜をメインに使用しています」
そう話す篠﨑さんが手掛けるのは、塩麴や玉ねぎ麹を使った、優しい味わいのメニュー。発酵の旨味が生きた料理は、心も体もホっと満たしてくれます。

風評被害で福島産のお米が売れない…。カフェ経営は「お米の魅力を伝える事業」の中でたどり着いた道

「実は、カフェをやるために起業をしたわけではないんです」と篠﨑さん。詳しく聞くと「お米の魅力を、より多くの方に伝える手段のひとつ」として、カフェ経営にたどり着いたのだといいます。起業に至ったきっかけは、2011年に発生した東日本大震災でした。共同経営者である橋本さんは、震災の経験から一念発起し、念願の声楽家として県内の小学校でボランティアをしていました。
そんな中、実家近くの米農家さんから、こんな声を耳にします。
「風評被害で福島のお米が売れない…。」「余ってしまって困っている…。」
美味しいお米があるのに、手に取ってもらえない現状を知り、「福島の美味しいお米の魅力を、もっと多くの人に伝えたい」と強く思うようになりました。
そんな橋本さんと篠﨑さんが初めて出会ったのは、なんとスリランカでの旅行中。しかし当時は特に親しくなることもなく、お互い名前を知る程度。名刺を交換したり、会話を交したりすることもなかったといいます。

それから2年後。共通の知人を介して、二人は橋本さんの地元・郡山で再会します。ちょうどその頃、橋本さんは郡山の農家を盛り上げようとさまざまな事業を展開していました。
「良ければ手伝って!」
そんな橋本さんの一言をきっかけに、篠﨑さんは住んでいた東京から福島へ足を運ぶ機会が増えていったそうです。

一方で、長年都内の飲食チェーンで働いていた篠﨑さん。6次産業化についても興味を持ち、日々学びながら過ごしていました。「友達と仕事をするつもりはなかったし、福島に来るなんて思っていなかった」と、当時のことを振り返ります。
「東京の飲食店は、お客様との距離は近いものの生産者とは遠いと感じていました。だからこそ、生産者のそばで仕事をしてみたいという想いがあったんです。」そんな想いを抱えながら、篠﨑さんは橋本さんとともに「福島の美味しいお米の魅力を発信する」ための事業に踏み出しました。

お米に付加価値を付けて販売したい!玄米コーヒーの誕生秘話

動き出した二人。「農家を継ぎたいと思う若者を増やすためにも、お米に付加価値を付けて魅力的に販売したい」という想いがありました。

まず取り組んだのは、米麹を使った甘酒の製造・販売でした。しかし、液体であることから販売時の持ち運びが大変という課題に直面します。
「もっと手軽に持ち運びが出来て、日常的に飲める商品をつくりたい」。そんな想いから生まれたのが、のちにnda焙の名物となる「玄米コーヒー」でした。焙煎した玄米で「玄米コーヒー」を製造するため、二人は「工場」を作ることを決意。玄米に対応できる焙煎機を必死に探し、ようやく見つけたのが、現在nda焙にあるこの焙煎器です。

本来はコーヒー豆専用ですが、玄米にも対応できるよう、特別な加工をしてもらいました。当時は玄米コーヒーの認知度が低く、工場よりもまずは飲む機会を増やすことが必要だと考えた二人。
「まずは実際に飲んでもらって、少しずつ好きになってもらおう」。そしてたどり着いたのが「カフェの経営」だったのです。

ひょんなことから田村市船引町の空き家と出会う

お米の魅力を広める事業を進める中で、東京から郡山に通っていた篠﨑さん。「真剣に農業をしている農家さんに、軽い気持ちだと思われてはいけない。本気で取り組んでいることを伝えるためにも、福島に拠点が必要だと感じていました。」
そんなとき、橋本さんのお父様が趣味で訪れたコンサートで、たまたま隣に座ったのが、この土地のオーナーでした。世間話の中で、「うちの娘たち、今拠点を探しているんだよね」と話すと、「それなら、うちの民家が空いているよ」と紹介されます。そのご縁がつながり、やがてこの場所でカフェをオープンすることが決まります。

「田村市でカフェをやることを目指していたわけではないんです。福島県産のお米の魅力を伝えたい。そこから話が広がり、たくさんのご縁がつながって、気づけばここにたどり着いていました。」

お店の存在をどう伝える?オープン後は「集客」に悩む日々。

築60年ほどの空き家を改修し「nda焙」をオープンした二人。カフェの改修には、被災12市町村で創業する方を対象とした「福島県創業促進・企業誘致に向けた設備投資等支援補助金」を申請し、無事採択。(※2023年時点で募集していた補助金です)対象経費の⅔が補助され、大きな助けになったといいます。

そして2023年10月にオープンしたnda焙。はじめは集客に苦戦し、試行錯誤の日々が続いたといいます。
「テレビ朝日さんの『人生の楽園』に取り上げていただいたことをきっかけに、少しずつ認知度は上がっていきました。ただ、国道からは少し奥まった場所にあることや、私たちが田村市出身ではないこともあり、お客さんに広く知ってもらうまでには時間がかかりました。」
集客については、今でも課題のひとつ。 「いつ来てもお客さんがいる状態」を目指し、メニューの工夫やSNSでの情報発信に力を入れていると話してくれました。

田村市は心にゆとりが生まれる場所。

「田村市は人口が多いわけではないので、何より『集客』が大変。いかにお客さんに認知してもらうかが、起業の鍵になると思います。」そう語る篠﨑さんですが、一方で、この場所ならではの良さも感じているといいます。

「都会と比べて、スペースが広いのは本当に魅力的です。それは住む場所だけじゃなく、建物や土地もそう。都会にいた頃は、家が密集し、どこか『圧迫感』を感じていましたが、ここでは空間にも心にも、ゆとりがあるなと実感しています。」
田村市は、広々とした環境だからこそ、心に余裕が生まれ、新しいことに挑戦できる場所。そしてこの地で生まれたのが、玄米コーヒーや発酵を活かしたこだわりのメニューです。
「体に優しく、美味しいものを食べてほしい」
——そんな想いから、厳選したお米と発酵食品を使い、一皿一皿、一杯一杯に心を込めています。

田村市に訪れた際には、ぜひこのカフェに足を運び、ここでしか味わえない特別なひとときを楽しんでみてはいかがでしょうか。


お米と発酵 Cafe&Shop「nda焙」

住所:福島県田村市船引町船引字舘柄33
電話:0247-61-5116
営業時間:8:00~16:00
定休日:月曜日
instagram:https://www.instagram.com/nda.bai/
運営:ndanda合同会社