自家製米と都路産の新鮮な食材で「高齢者」と「地域の食」を繋ぐ場所『和・Daidokoro』

和・Daidokoro

都路町

郡山市から双葉町へ続く国道288号線。田村市都路町岩井沢の分岐を右に曲がり、しばらく走ると見えてくるのは【和 Daidokoro】の看板が掲げられた一軒家です。
ここで事業を行うのは、都路町出身の吉田 真由美さん。吉田さんは実家であるこの一軒家を改装し、「食」に関するさまざまな事業を手がけています。

具体的には、
①地域高齢者向けの配食サービス
②地元の食材を活かしたお弁当の移動販売
③地域の「憩いの場」としての飲食店 など。
農業を営むお父さんが作る自家製のお米に、地元で採れた新鮮な野菜や地元で養殖している川魚を味わえる料理は、「ホッとする味」として地域の高齢者から愛されています。今回は吉田さんに、創業に至った経緯や、食と地域を繋ぐ事業についてお話を伺いました。

震災後、高齢化が著しい都路町。買い物や調理が難しく栄養が偏る高齢者も

2011年の福島第一原子力発電所の事故により、都路町では多くの住民が避難を余儀なくされました。生活基盤が町外に移った若者たちは、震災から13年が経った現在も、都路町に戻れない状況が続いています。その結果、震災前に約3,000人だった人口は、2020年時点で約2,200人にまで減少しました。そこで課題となったのが、「高齢者の孤立」と「健康維持」です。
実際、都路町で暮らしていた私の祖父母も、デイサービスに行きたがらず、家で過ごすことが多くありました。自宅で過ごす選択をした場合は、デイサービスに行けば受けられるはずの支援が受けられません。そんな現状を見て、高齢者が自宅にいながらでも、孤立せず、支援が受けられる方法はないかと考えていました。
また、免許を返納してしまい買い物に行けない、足腰が悪く調理が難しいなどの理由から、栄養が偏ってしまう方が増えてきました。「生まれ育ってきたこの場所で、高齢者を『食』で支え、地域と繋ぐ事業ができないだろうか」と模索し始めたのが、今から3年ほど前です。

きっかけはもう一つあり、野菜の廃棄を減らしたいと思ったから。近隣の農家さんは作りすぎた野菜を配った後、食べきれずに廃棄してしまうことも多いんです。
「地元の新鮮な食材を多くの人に食べてもらいたい」
「漬物などの定番料理だけでなく、工夫次第ではさまざまな方法で美味しく食べられることを知ってもらいたい」
そんな思いが常に心にありました。
そして2022年に合同会社和を立ち上げ、高齢者向けの配食サービスを中心に事業を始めました。加えてお弁当の移動販売、飲食店の営業など、地域に根差した「食」のサービス展開を行っています。

都路町を中心に配食サービスを開始!野菜たっぷりで栄養バランスの取れた食事を自宅までお届け

現在のメイン事業は、田村市からの委託事業である「高齢者向けの配食サービス」です。足腰が悪く買い物が難しい方や、自分で調理するのが負担になっている方に向けて、自家製のお米や地元の新鮮な野菜をたっぷり使った、バランスの良い食事を自宅までお届けしています。

配食サービスは、以前から行政によって実施されていました。しかし、市街地から離れた都路町は、国道沿線上のみ対象で、町のほとんどが配送業者のエリア外だったんです。サービスが行き届かない地域があると知り、「配送のエリア外になっている都路町の広範囲、そしてまだ配食サービスが再開されていない葛尾村を対象に、この事業を引き受けたい」と行政に申し出たのがきっかけでした。開始から1年半が経った今、少しずつ依頼が増え、現在は20名の方にご注文いただいています。
利用者さんからは「ご飯は少し柔らかめが良い」「おかずの材料を小さめに切って」などのご要望をいただくことも。可能な範囲で一人ひとりに寄り添い、柔軟に対応することを心掛けています。

配食サービスは安否確認付き!配達時に利用者の心身の状態や食欲、火の元をチェック

配送時には安否確認も行っています。心身の状態や食欲、食べ残しの有無、自宅周辺や火の元もチェックし、希望があれば家族にメールで報告します。
小さな変化にも気付いてあげたいと思う一方で、体調を聞いても「平気だよ」「大丈夫」と答える方がほとんどです。その裏には「心配をかけたくない」「大ごとにされたくない」という気持ちが隠れているのかなと。配食サービスが安否の確認手段として十分に機能させるためにも、気持ちに寄り添いながら、小さなサインも見逃さない姿勢が大事だと思っています。
最近は「配食サービスが日々の楽しみ」「話ができるのが嬉しい」といった言葉をいただくことも増えました。その一言一言が、私たちの日々のやりがいに繋がっています。

新鮮な地元野菜を存分に味わえる!お弁当の移動販売

現在は、周辺地域の役場から定期的にお弁当のご注文をいただき、毎週決まった曜日に配達しています。キッチンカーで配達するときは、厨房でおかずだけ詰めて、提供時にご飯とお味噌汁をよそっています。地元の食材をできる限り温かく美味しい状態で召し上がっていただきたいので、こういった工夫は欠かせません。

実家を改装して飲食店をオープン!地元住民や移住者が集う「憩いの場」を提供したい

高齢者の孤立を防ぐには、お年寄りが自然に集まり、ゆったりと時間を過ごすことができる「憩いの場」が必要不可欠です。そんな想いから、2年前に実家を改装し、茶の間だった部屋を飲食スペースに変え、飲食店をオープンさせました。

今はランチタイムに営業しており、自家製の野菜をふんだんに使った小鉢定食を提供しています。通常営業のほか、田村市で移住促進に向けて開催している農業体験ツアーや林業体験ツアーへの参加者に、食事を用意することもあります。

実はこの飲食店は、まだ十分に稼働できていないのが現状です。口コミでランチ営業を知った方が少しずつ足を運んでくださっていますが、現在は配食サービスがメインのため、お昼12時までに戻るのが難しく、営業の時間が限られてしまうんです。
今後は本格的に営業を開始し、都路町に住む地元民と、田村市への移住者が気軽に集まれる「交流の場」としても活用していきたいです。移住後まもない方は、慣れない土地での生活に苦労したり、相談できる人がいなかったりなど不安も多いはず。
ここでは移住者同士が悩みを共有したり、都路町で叶えたい夢を地元の方と語り合ったり。そんな「自然と足を運びたくなる場所」を目指していきたいです。
さらに「おじいちゃんおばあちゃん食堂」の運営も検討中です。都路町に住む高齢者をホールスタッフとして雇い、接客してもらうことで、移住者との交流や、就労支援にも繋がります。飲食店としてだけでなく「移住者と地元民の交流」ができる場とすることで、高齢者の孤立を防ぎ、移住者の生活のサポートや後押しができれば嬉しいです。

野菜や川魚はできるだけ地元のものを!「今後も都路町産の仕入を増やしていきたい」

お弁当や配食サービスで使っているお米は、すべてうちの父が育てた自家製米です。実家のすぐそばに、3反歩の田んぼがあり、近所の方にも手伝ってもらいながら農業をしています。

野菜は主に父の畑で採れたものを使用。夏はとうもろこし、なす、トマト、ほうれん草、秋はさつまいも、冬はだいこんや白菜を育てています。うちの畑ではきゅうりがあまり採れないので、ご近所の農家さんから仕入れています。これらの野菜を配食サービスやお弁当に活用することで、廃棄の削減に加え、地元農家さんの応援にも繋がると嬉しいです。

イワナやヤマメなどの川魚は、この近くで養殖を行う「吉田水産」さんから仕入れています。吉田水産さんは2011年の東日本大震災で養殖場が大きな被害を受け、当時育てていた魚60万匹が死んでしまい、休業を余儀なくされたといいます。
しかし、震災から5年後、都路町で新たな養魚施設を完成させ、イワナやヤマメ、ニジマスの養殖を始めたのです。避難指示が解除されたとはいえ、都路町での再開は相当な覚悟があったのだろうと思います。吉田水産さんが想いを込めて育てた川魚を、ここでお客様に提供できる。その繋がりが生まれたこと、そしてこの地域では希少な川魚を味わっていただけることに、大きな喜びを感じています。
宿泊客やツアー客への夕食では、イワナやヤマメを炭火焼にして提供することも。香ばしい香りと見た目の美しさで、お客様からも「皮はパリパリ、身はほろほろで美味しい」と喜ばれています。

食材ができる過程を学ぶ!親子で一緒に参加できる農業体験

今年の秋には、親子で参加できる農業体験「さつまいも堀り」を行いました。農業体験は食材ができる過程を学べるだけでなく、食べ物への感謝の気持ちが生まれ、小さな子どもの食育に繋がります。
今は「土に触れない」という子どもも増えましたが、土いじりにはたくさんのメリットがあります。自然との触れ合いによって五感が刺激されたり、ストレスを和らげたり、好奇心や探求心が育つとも言われているんです。今後は種まきから収穫まで、1年を通じて体系的な農業体験プログラムを展開していきたいですね。

今後は一人ひとりに寄り添った「包括的な介護サポート」を

要介護認定を受ければ、多くの場合は行政からさまざまなサポートを受けられます。その一方で、まだ認定を受けていない方も、実は日常生活のあらゆる場面で困りごとがあるんです。配食サービスをしている中で、そういった現状を目の当たりにしてきました。そこで、今後は配食やお弁当などの「食」に留まらず、一人ひとりに寄り添った包括的な介護サポートができればと考えています。
具体的には、買い物の介助や電球交換、草むしり、病院の付き添い、おむつなどの衛生用品の移動販売を想定しています。
一人ひとりの抱える悩みや希望に寄り添えるのは、民間企業だからこそ。今後は配食サービスやお弁当販売、飲食店の経営に加えて、高齢者に向けた「包括的なサポートサービス」を行い、高齢者が安心して暮らせる環境を整えることが目標です。

和・Daidokoro

住  所:福島県田村市都路町岩井沢字日向111
電話番号:0247-75-3191
営業時間:飲食店は月曜日~金曜日 11:00~14:00
HP:https://connect-wa.llc/wanodaidokoro/dining/
※お弁当のご予約はお電話またはInstagramのDMから。
※飲食店でのランチは3日前までにお電話でご予約ください。


「農業」や「食」に関心のある方は、たむら移住相談室へ!

今回は【和 Daidokoro】の吉田さんから、農業との連携、地元野菜の効率的な活用、そして高齢者が安心して暮らせる町づくりなど今後の展望についてお伺いしました。
田村市では、就農に関するイベントやツアーを定期的に開催しています!新規就農に興味のある方は、ぜひたむら移住相談室へお問合せください。