無病息災を祈願し地域の方が愛情もって衣替え。田舎町を守り続ける巨大な『お人形様』
お人形様
船引町
福島県の中央からやや東に位置し、全体の約67%を山林が占める中山間地域田村市。のどかな田園風景が広がる田村市を守っているのは、「お人形様」と呼ばれる守り神。「お人形」と言っても、着せ替え人形や動物のぬいぐるみのようなかわいいものではありません。
背丈は私たち人間よりずっと高く、その顔は、歯をむき出しにし、近寄るもの全てを戦慄させるかの如く睨みを利かせています。剣や薙刀(なぎなた)を携え、大きく広げた両手は、一切の災いがこの地を通過することを拒んでいるかのようです。
それが、田村市を守るお人形様。
この地を昔から守り続けてきたお人形様は、今も地域の人たちによって大切に、大切に管理されています。
今回はそんなお人形様について、ご紹介します。
元々は「五人形様」だった?
お人形様の始まりについては、ずっと昔のことなので、当時のことを詳しく記している文書は残されていません。しかし人から人に語り継がれた話によると、お人形様は元々「五人形様」と呼ばれ、福島県の三春町からいわき市をつなぐ道(磐城街道)沿いに、5体が祭られていたそうです。
長い年月の間に、5か所のうち2か所ではお人形様の風習が途絶えてしまいました。今でもお人形様を祭り続けているのは、田村市船引町の朴橋(ほうのきばし)、屋形、堀越地区の3か所のみです。
ではそもそもお人形様はなぜ祭られたのでしょうか。
伝わるところによれば、その昔、この地方が流行り病に襲われた際、その災いから人々を守るためにお人形様が祭られたと言われています。
田村市のお人形様の特徴の1つが、毎年新しい衣装に「着替える」こと。「お衣替え」と呼ばれるこの風習は、毎年4月~5月頃に行われ、各地区の人々が集まって藁を編み、衣装や装飾品を一新します。顔周辺の髪の毛や髭は杉の枝葉で整えられます。
自然の植物を使っているので、5月に見るお人形様と、3月に見るお人形様とでは、色やボリュームが全く違います。
他ではあまり見ないこの風習が認められ、福島県無形民俗文化財としても登録されています。
小高い丘の上から町を見下ろす「朴橋のお人形様」
江戸時代以前から祭られている朴橋のお人形様。町を見下ろす丘の上に祭られています。正面の参道からお人形様に会いに行くには、なだらかな坂になっている杉林の横を歩いていく必要があります。参道入口からお人形様までは、大人の足で5分程でしょうか。
田舎の田園風景に心和ませながら歩いていると、アッという間にお人形様へと続く階段が出てきます。(この階段だけは少々急なので、注意して昇ってください)階段の下に行き、上を見上げると…
はい、いらっしゃいました!
階段を上って近づいてみます。高さは約4m。杉林の中にどーんと佇む姿に、強い包容力を感じます。
ちなみに下の写真はお人形様が見ている景色です。この時は冬でしたが、春から夏にかけては田んぼや畑、森が活き活きと青く色づくので、田舎の景色に癒されたい!という方のお散歩コースにもおすすめです。
急な坂を上がった先に突如現れる「屋形のお人形様」
続いては「屋形のお人形様」に行ってみましょう。入口はこちらです↓
見ての通り、こちらは最初から坂になっています。距離はそんなにありませんが、かなり急な坂です。周りの自然観察を楽しみながら、ゆっくり上ってください。この坂を上りきると、そこは開けた空間に。なんとも歴史のありそうな、情緒ある公園です。
そこからさらに階段を上ります。丘を回り込む形で階段を上りますが、ここで一つ注意点。決してフライングして、顔を大きく上げてはいけません。というのも、屋形のお人形様は、3体の中で出会った時の衝撃が一番大きい(と筆者は思っています)のです。
急な坂を息を切らしながら上り、そろそろかな?と顔をあげた瞬間に突如目の前に現れるお人形様。これまで何度もお人形様には会いに行きましたが、やっぱりこの衝撃は、何度味わっても「おぉっ!!!」となります。
屋形のお人形様も、江戸時代(1808年)にはすでにその風習があったと記録されています。時代を超えて、田村市を守り続けているんですね。
平安時代の武将に縁のある神社に祭られた「堀越のお人形様」
堀越のお人形様は、他2体のお人形様とは少々違った経路をたどり、今に至っています。というのも、実は堀越のお人形様は、明治40年に一度、その風習が断絶してしまいました。理由ははっきりとはわかりませんが、恐らくは明治38年に起きた大飢饉が原因だろうと言われています。
一度断絶してしまったお人形様の風習ですが、お人形様の命ともいうべき「お面」だけは、堀越地区の明石神社にずっと保管されていました。そして平成4年、地元の方々の努力により、87年ぶりにお人形様は守り神として、再び祭られることに。その際、当初あった場所ではなく、平安時代の武将、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)にちなんだ伝承が残る歴史ある「明石神社」へと移されることとなりました。
神社は道沿いにあり、お人形様は神社の入口のすぐ脇に祭られているので、3体のお人形様の中では一番会いに行きやすいかもしれません。屋根がついているので、冬に見に行っても、比較的きれいな状態のお人形様を見ることができます。
こちらの赤い橋の先に、お人形様がいらっしゃいます。
こちらが堀越のお人形様。他の2体に比べ、目や鼻が大きく、どことなくかわいらしい、親しみやすい雰囲気をもっています。
明石神社に関しても、見どころや歴史がたくさんありますので、いずれ改めてご紹介できればと思います。
お人形様は田村市民の心の拠り所
いかがでしたか?
田村市のお人形様は、市民の心の拠り所であり、田村市の文化の1つとして、今日に至っています。
JR船引駅ではお人形様のレプリカが市民の帰りを迎え、町に出ると、雑貨やパン、お菓子や手芸品、美術品など、至る所でお人形様の姿を見かけます。田村市を守り続けるお人形様は、市民からとっても愛されているんですね。
ぜひ一度、田村市の守り神、お人形様に会いに来てください。
ちなみにおすすめの季節は、お衣替えが終わる5月頃~夏にかけてです。活き活きとしたお人形様が見られます。
アクセス
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お人形様に関するお問合せ
船引町お人形様保存会連絡協議会
(田村市産業部観光交流課内)
住所:福島県田村市船引町船引字畑添76番地2
電話番号:0247-81-2136 (観光係)
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